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2013.04.22
特許保有者は原則自ら実施しようがしまいが勝手であり、侵害者に対して損害賠償や差止め命令を求めることも、法が認めている救済です。「トロールだから」ということで特別な法規制をかけることは難しく(実際はこれを目的とした「シールド法」という法案が提出され、審議中)、そもそも大企業自身がトロールを便利に利用する場合もあるという現実のなかで、いまやトロールは「ひとつの産業」を構成するほどアメリカ経済社会に根を張っている観があります。例えば「アメリカのPatent Marketplace における主要プレイヤーは」と問われれば、必ず登場してきます(”Landscape 2013: Who are the Players in the IP Marketplace? “ IPWatchdog® 1/23/2013他参照)。
ただし、これは、パテント・トロールがアメリカ社会において是認・認知されたというものでは決してありません。それどころか、最近になってトロール弊害の深刻さ、根深さがつぎつぎと明らかにされ、司法のみならず立法、行政による対策が真剣に検討される段階に入ったといえそうです。まずは、ここ1,2年の主だった動きを拾ってみましょう。
・2011年9月 アメリカ発明法(AIA)成立
第19条: 当事者併合の制限規定設置。…トロールが典型的に行う多数被告をまとめての訴訟を困難にする。実際、9月16日の法発効前に「駆け込み訴訟」が急増し、発効後は減少(一時)。
第34条: 「non-practicing entities, patent assertion entitiesによる特許訴訟」の研究報告を議会に提出するよう会計検査院(GAO)に義務付け
・2012年10月 “AIA 500: Effects of Patent Monetization Entities on US Litigation”発表
前記AIA第34条の指令に基づく研究レポート
・2012年12月 FTC・DOJ(連邦取引委員会・司法省)共同ワークショップ
“Patent Assertion Entity” の行動について
・2013年1月 USPTO ラウンドテーブル
「真の利害関係者(Real-Party-in-Interest)」情報の開示について
・2013年2月 オバマ大統領 市民とのビデオ会議参加トロール問題解決に向けた改革を示唆
因みに、上記の通り「パテント・トロール」については、その他の呼び名もいくつかあります。政府、学者の文書では、蔑みの(感情的)ニュアンスを含む「トロール」よりもNPE (Non-Practicing-Entities)、PAE(Patent-Assertion-Entities)、Patent Monetization Entities(Monetizer)といったことばが用いられています。本稿では原文引用箇所以外は、なじみある「トロール」を用いることとします。
さて、今回は一連の動きの中でも最もホットな話題を紹介いたします。4月9日に公表された標題のレポート「AIA500 拡大版」(The AIA 500 Expanded: The Effects of Patent Monetization Entities)です。
すでにご覧いただいた通り「AIA500」は、アメリカ発明法(AIA)の指令により作成された実態調査レポートです。訴訟調査会社と大学教授が調査・共同執筆した2012年版AIAレポートは、アメリカの全特許訴訟に占めるトロール訴訟の割合が2007年には22%であったのに対し、2011年にはほぼ40%にまで及んでいることを伝え、衝撃を与えました。
ただし、2012年版が調査対象としたのは2007年から2011年の5年間において、それぞれ年間100件の訴訟をサンプル抽出した500案件の分析でした。今回の拡大版は、サンプル解析結果を検証すべく、2007―2008年、2011-2012年に提起された全特許訴訟を解析したものです。調べた訴訟は約13,000件、このなかで権利主張された特許は30,000件に及ぶということです。
この結果、訴訟件数にとどまらぬ、きわめて興味深い数々の実態が明らかになったのです。
1)トロール訴訟の割合 – 約6割に達す
2007年の24.6%に対し、2012年には58.7%。調査対象期間中、提訴件数の多い原告トップ5社のうち、4社はトロール。1社は事業会社ではあるが、業界内では「トロール的訴訟」で知られている。
特許訴訟が提起された場合、裁判所は特許庁へ提訴事実を通知する義務があり(特許法第290条)、特許庁はこの通知を受けて公衆に特許訴訟の事実を告知するシステムになっている。しかし、実際にこのような通知がなされているのは全体の2/3足らず。特に中小企業などは、どのような特許が訴訟対象になっており、どの部分が権利主張されているのかなどを容易に知ることができないため、影響が大きい。
3)特許の譲渡/移転記録が不明確
「訴訟前の特許移転」という大きな市場が存在する。訴訟対象になっている特許の過半(約52%)は、当初の所有者から他者へ移転されている。そのうち47%は当初の所有者名のままになっている(特許庁譲渡データの更新・届出がない)。
*訴訟対象となっている特許の真の権限者が不明という実態も大きな問題となっていて、前出の特許庁ラウンドテーブル(2013.1)で論じられた「真の利害関係者(RPI)」情報の開示義務ルール化が検討されている。
4)訴訟対象特許の年齢
認可されたばかりの若い特許ほど訴訟対象とされていて、古くなるに従い、訴訟対象となる割合は低下する。即時の権利行使を目的として特許出願する傾向が強まっていることを示している。
5)権利満了後の特許マーケット
一方で、権利期間が満了した特許の売買市場も存在する。満了後も過去6年まで遡れる損害賠償請求権を得ようとするmonetizerが主な購入者。
興味深い情報豊富な本レポート(全109頁)は以下のサイトで入手可能です。
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=2247195
(IP総研所長 飯野昇司)