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2013.06.26

登録後レビュー(PGR)および当事者系レビュー(IPR)の利用実態

 米国特許法改正(America Invents Act: AIA)によって、従来の特許無効化手続きである当事者系再審査(Inter Partes Reexamination)と査定系再審査(Ex Parte Reexamination)のうち、当事者系再審査の廃止が決定された。また、当事者系再審査の代替として、登録後レビュー(Post Grant Review: PGR)および当事者系レビュー(Inter Partes Review: IPR)の導入が決定された。PGRは欧州の異議申立制度に相当し、申立期間は登録日から9ヶ月以内となっている。IPRは当事者系再審査に代わるもので、申立期間は登録日から9ヶ月経過後となっている。

 制度切り換えのタイミングとしては、当事者系再審査が2012年9月15日で廃止され、PGRおよびIPRが9月16日に施行された。PGRの対象となるのは2013年3月16日以降の有効出願日をもつ新法(先願主義)適用の米国特許、IPRの対象となるのは出願日および発行日によらず全ての米国特許となっている。従って当面の間PGRは利用できないが、ビジネス方法特許についてのみ出願日によらずPGRを認める経過措置がとられている(Transitional Program for Covered Business Method: CBM)。

IPRおよびCBMの技術分野内訳と上位申立・被申立人

 新たに導入されたIPRおよびPGR(CBM)だが、2012年9月から2013年5月までの間にIPRは262件、CBMは28件の請求がなされている。このIPRおよびCBMの合計290件の技術分野内訳を図1に示す。図1にあるとおり、ソフトウェア関連、通信関連、半導体関連の特許に対する申し立てが過半を占めている。

 次に、申立人および被申立人ごとの、申立件数上位企業一覧を図2に示す。申立人については、最多19件の申し立てを行っているOracleや、Veeam Software、Apple、EMC、Microsoft、Research In Motion(現BlackBerry)、ZTEなどのソフトウェアや携帯端末を主な製品とする企業が上位に名を連ねている。被申立人については、Clouding IPやSemiconductor Energy Laboratory(半導体エネルギー研究所)などの、いわゆるNPE(Non Practicing Entity)も上位に含まれている。申立人と被申立人の対応は、Oracle対Clouding IP、Corning対DSM IP Assets、Liberty Mutual Insurance対Progressive Casualty Insurance、ChiMei Innolux対Semiconductor Energy Laboratory、Veeam Software対Symantecなどとなっている。

IPRおよびCBMの請求件数推移

 次に、IPR・CBM・査定系再審査および、既に廃止された当事者系再審査の月毎の請求件数を図3に示す。従来の当事者系再審査および査定系再審査の請求件数は、2012年1月から7月までは当事者系再審査が20~30件/月程度、査定系再審査が40~50件/月程度で推移していた。ところが、制度切り替え時期である2012年9月には、当事者系再審査は約280件、査定系再審査は約230件もの請求がなされている。当事者系再審査については2012年10月以降廃止されるため、このような駆け込みの請求がなされたものと考えられる。また、査定系再審査については以降も制度は継続されるにも関わらず、このような駆け込みの請求がなされた点については、請求費用の増額が一つの要因として考えられる。

 新制度に切り替わった2012年9月以降を見てみると、IPRの請求件数は20~40件/月程度、CBMの請求件数は0~10件/月程度、査定系再審査の請求件数は10~20件/月程度で推移している。IPRとCBMの請求件数を合わせると、今のところほぼ30~50件/月でほぼ横ばいの推移となっている。査定系再審査についてもほぼ横ばいの推移となっているが、2012年9月以前と比較すると、月ごとの平均請求件数は20件程度減少している。これは、前述のとおり請求費用が増加したことや、駆け込み請求の反動によるものと考えられる。

CBMで初の決定

 2013年6月11日、CBM案件について初の決定が下された。この案件はCBMが開始されて最初に請求がなされたものであり、SAP AmericaがVersata Softwareの米国特許6,533,350号のクレーム17、26~29の無効を主張していた。この決定では、SAP America が主張していたクレーム全ての無効が認められた。IPRについては、最終決定が下されているものはまだない。従来の当事者系再審査に比して高額なIPR、PGR、およびCBMが、企業にとって本当に有用な制度であるかについては、今後の動向をさらに注視していく必要がある。

(IP総研 永吉拓也)

図1 IPRおよびCBMの技術分野内訳
図2 申立件数上位企業一覧(申立件数6件以上)
図3  IPR・CBM・査定系再審査・当事者系再審査の請求件数推移

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