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2013.07.18

アップル社 音声認識機能 Siriに関する中国特許侵害訴訟Shanghai Zhizhen Network Technology社 vs Apple社 2013年7月3日 上海第一中級人民法院にて開廷

タブレット型多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」の商標権を中国広東省深セン市の企業 Proview Technologyから6000万ドル(当時の為替レートで約48億円)で買い取ることで和解した米国Apple社が、今度はスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」に搭載した音声認識機能「Siri(シリ)」が特許を侵害したと別の中国企業に提訴されたケースが2013年7月3日に上海第一中級人民法院にて開廷した。
<事件概要>
訴えたのは上海智臻網絡科技有限公司(HP:http://www.xiaoi.com/ 住所:上海市金沙江路3131号8号楼2F)というIT企業。2001年からインターネットのチャットソフトに関する技術を開発し、約4000万のユーザーを持つという。さらに、Microsoft、HaierやLenovoなど著名企業も顧客である。同社は、2004年に出願し2009年に中国で登録された対話システム「小iロボット」の特許(ZL200410053749.9)をSiriが侵害したと主張。

同特許のオリジナル公報及びその機械英訳は下記米国特許庁のGPSN(Global Patent Search Network)にて閲覧することができる。
http://gpsn.uspto.gov/#/patent/CN100518070C

上記公報では出願人が「上海贏思軟件技術有限公司」(以下は「贏思社」という)となっているが、中国特許庁が提供する最新のステータス情報によると、2012年1月4日に同特許は「上海智臻網絡科技有限公司」(以下は「智臻社」という)に譲渡されている。また、上海市工商行政管理局にてこの二社の登記情報を調べたところ、その代表者は共に、同特許の発明者でもある「袁輝」となっていることが判明。

<これまでの経緯>
-2004年08月13日 — ZL200410053749.9を贏思社が出願。
-2006年02月15日 — 同特許が公開される。
-2009年07月22日 — 同特許が登録される。
-2012年01月04日 — 同特許は贏思社から智臻社に譲渡される。
-2012年01月13日 — iPhone 4Sが中国で発売され、Siriの機能が注目される。
-2012年04月28日 — 智臻社は、Siriを分析した結果、自社特許に抵触すると判断。
-2012年05月08日 — 智臻社は、Apple社に文書で話し合いを求めたが、無視された。
-2012年06月21日 — 智臻社は、上海第一中級人民法院に訴訟を提起。
-2012年06月26日 — 同法院が訴状を受理。
-2013年03月27日 — 同法院で予審が行われた。Apple社は証拠不十分として審理の中止を求めているが、同法院は具体的な判断を下していない。
-2013年07月03日 — 同法院で開廷。

<最新状況>
国家知識産権局専利復審委員会(以下は「復審委」という)のホームページでは、ZL200410053749.9に対する無効審判の口頭審理が2013年5月9日に行われたことが確認された。無効審判の請求人はもちろん、Apple社。
http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/koushen/oraldetail.jsp?id=17253

他のニュース報道によると、同事件が重大な影響を持っているため、関連業界から約50名の参加者が口頭審理を傍聴したという。しかし、Apple社がどのような無効資料を利用され、復審委がどのような審決をしたのか、現時点では明らかになっていない。審決文の公開を待つ。

また、上述したように、2013年7月3日に上海第一中級人民法院で開廷したが、ニュース報道によれば、Apple社は以下の点を主張した。

   Siriのサーバーが米国にあるため、中国の法律には適応しない。
   Siriは全くの別物で、もっと先進的である。
   侵害鑑定を行った機関、上海浦東知識産権司法鑑定センターの資質は不十分。

しかし、これらの主張は裁判官に認められるか否か引き続き追跡していく必要がある。次々とヒット商品を出している世界的な企業Apple社が、中国で抱える知財訴訟リスクが改めて浮き彫りになった。年間売上16兆円、純利益4兆円強の巨大企業からすれば、このような事件は痛くも痒くもないかもしれないが、事前に調査を行えば一部の訴訟が回避できたはず。

<後記>
中国は1985年に専利(特許)法を導入してからまだ30年が経っていないにもかかわらず、出願件数の急増を背景に、知財民事訴訟件数はすでに米国の2倍を超えるほどの訴訟大国となり、なおも増加傾向にある。中国は「模倣品大国」のイメージが強いが、一方で、シュナイダー事件と富士化水事件などが象徴しているように、外国企業が侵害者として提訴され、敗訴して多額の損害賠償を負う事態が多発している。例えば、2009年にシュナイダー社が最終的に支払った和解金額は約1億5千万人民元(1元=約16円)で、実用新案1件の額としては世界最高と言われている。その後も、中国方大グループ vs 某日本大手会社、湖南科力遠(CORUN)社 vs カナダINCO社といった中国企業が外国企業を相手とした知財侵害訴訟が次々と起きている。一方で、韓国LGライテック社 vs ドイツオスラム社、米国FAIRCHILD社 vs 米国Power Integrations社などの事件では、外国企業が中国の人民法院で訴訟合戦をする新たなトレンドも注目され始めている。

NGB IP総研では、中国現地で独自の調査拠点を設立し、中国特許調査サービスを強化しております。また、中国における無効審判、鑑定、公証、訴訟等に関する調査やサポートサービスも幅広くご提供しております。詳細はip-soken@ngb.co.jpまでお問合せください。

IP総研 研究員 呉礼(Wu, Li)

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