IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2014.12.22

米国研修レポート2014/10~前篇:Myriad/Alice最高裁判決の影響とAFCP2.0の現状~ vol. 1

NGB特許部では毎年若手部員の米国研修を実施しています。今年も2014年10月20日から24日までの日程でワシントンD.C.とその近郊の特許事務所を訪問しましたのでその様子をお届けします。

研修では、毎年テーマを設けて質問事項を用意し、各特許事務所の代理人とその内容をもとにdiscussionを行うのですが、今年は技術系(さらに言えば電気機械系、化学系)、事務系と様々なバックグラウンドを持つ部員が研修に参加したため、質問事項は事務所の特色について尋ねるものから、IDS実務、判決の実務的影響に関するものまで幅広く、またその数も膨大なものになりました! そのせいか、事務所訪問の際には、NGBからの質問“集”を受け取った代理人から「“とってもたくさん”の質問をどうもありがとう」という言葉をかけられ、笑いとともにdiscussionが始まることも多くありました。

ともあれ、どの代理人もNGBが設けたテーマについて熱心に意見を交わしてくれたため、大変有意義な時間を過ごすことができました。そのような数あるテーマの中から、前篇ではMyriad/Alice最高裁判決の影響とAFCP 2.0の現状について、vol. 1とvol. 2に分けてお伝えします。

– vol. 1 (Myriad最高裁判決の実務的影響)
vol. 2 (Alice最高裁判決の実務的影響とAFCP 2.0の現状)

Myriad最高裁判決の実務的影響

2013年6月、米国連邦最高裁判所はMyriad事件において「DNA断片は天然物であり、単離されただけでは特許適格性を有することにはならない。一方、cDNAは天然には存在しないものであるため特許適格性を有する」と判示しました。この判決は、「単離された」という文言を付加することでDNAは米国特許法第101条の特許適格性を有するとしてきた米国特許商標庁の実務を覆すものです。

今後米国では天然のDNAについて特許を取得できなくなり、またすでに特許された発明も無効になることが考えられるため、天然のDNAを扱う出願人に対して大きなインパクトを与える判決であったことは言うまでもありませんが、その影響はさらに広がりを見せています。というのも、上記判決を受けて2014年3月に米国特許商標庁から発行された審査手続きガイドは、「自然法則、自然現象及び自然産物を記載又は包含するクレーム主題の特許適格性を判断するためのガイダンス」とされ、Myriad最高裁判決を含む関連判決(Chakrabarty最高裁判決、Prometheus最高裁判決など)を引用しながらより広い分野の特許を対象とした判断基準として提示されているからです。

また、ガイダンスには以下のような特許適格性判断のための3つのステップが示されており、さらに、ステップ3に記載の「著しく異なる」かどうかの判断を左右するファクターと具体的な検討事例が与えられています。
1.クレームされた発明が4つの法的主題(方法、機械、製造物、組成物)のいずれかに分類されるか
(YES: ステップ2へ NO: 特許適格性なし)
2.クレームは司法上の例外(抽象的概念、自然法則/自然原則、自然現象、自然産物)を記載又は含んでいるか
(YES: ステップ3へ NO: 特許適格性あり)
3.クレーム全体が司法上の例外に対し著しく異なる(significantly different)ものを記載しているか
(YES: 特許適格性あり NO: 特許適格性なし)

実際、NGBでもDNA以外の発明に関してMyriad最高裁判決を引用した101条拒絶が挙げられたケースが複数あったため、101条拒絶を避ける又は解消するためのポイントや具体的な対応例などについて代理人からヒアリングを行いました。

まず出願時・補正時のクレームドラフティングにおける101条拒絶回避のポイントとして、“isolated”という用語を削除して例えば“recombinant”や“synthetic”といった用語を用いること、またすでに判決において特許適格性が認められているcDNAのクレームを加えることが提案されました。さらに、判決では言及されていない、方法クレームや天然DNAから配列順序が変更されている合成DNAなどのクレームを追加すること、組成物のクレームであれば非天然物の要素を加えることなどが提案されました。

また反論方針としては、天然物との構造的な違いや化学的性質の違いを説明、証明することが基本となりますが、ガイダンスの記載や判決内容を引用することもまた有効であろうとのことでした。この際、上記ガイダンスが導入されて間もないことからその内容を十分に理解していない審査官も多いであろうとの理由で、担当審査官の上長にあたる審査官(Supervisory Examiner)の同席のもとで審査官と面接を行うことをすすめる意見も聞かれました。さらに、出願時であれば、その発明が天然物とどのような点で異なるのか(どのような方法で人工的に作られたのか、いかに有用な効果を奏するのかなど)という点について、明細書の記載を充実させておくことが重要であるとする代理人もいました。

具体的な事例として、天然物とは構造が異なる化合物、タンパク質、微生物について仮想事例を設定し、天然物と発明との間で活性や有用性に差がある場合とない場合で、その特許適格性の判断にどのような違いが生じるかを議論したところ、発明自体が天然物と異なる構造を有し自然界には存在しない発明であるならば101条拒絶を受けるべきでない、受けても反論可能である、特許適格性は認められうるとする意見が多いようでしたが、その判断は差異の大きさによる、活性や有用性に差があればより有利であるという意見もありました。また、事例によってはMyriad判決はこのような範囲の発明については言及していないとして明確な回答を避ける代理人もいました。

さらに、別の事例として天然物(化合物やタンパク質、微生物など)と添加物を含む組成物の特許適格性について議論したところ、この例に対しては特許を得ることは難しいとする代理人が多く、添加物がどのようなものであるか、天然物単体と比べ組成物の機能にどれだけの違いがあるのかなどの要因によっても判断は変わるとする意見が多いようでした。

概して、代理人は上記ガイダンスの適用範囲がMyriad事件などで判示された内容に対してあまりに広く設定されている点、またその対象の広さに対してまだまだ不明確な要素を多く含んでいる点を問題視しており、判決が言及していない発明については特許の可能性が残されている、あるいは現時点では判断がつかないとの見解を示していました。

なお、近日中に新たなガイドラインが発行される予定であり、代理人はより明確な方向性が示されることを期待していました。また指令書対応中の案件については応答を引き延ばす対応をすすめる代理人が多数を占めました。新たに発行されるガイドラインとともに、実務に影響を与えるであろう関連訴訟の判決にも注目していく必要がありそうです。

  *追記*
  USPTOは2014年12月16日、新たなガイドラインを発表しました。
  https://federalregister.gov/a/2014-29414

ご不明な点などございましたらNGB特許部までお気軽にお問合せください。

vol. 2 (Alice最高裁判決の実務的影響とAFCP 2.0の現状)に進む。

(記事担当:高井、中澤、中村、西村、篠田)

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン