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2015.09.24

【Cases & Trends】 インド法学者による公益訴訟で明らかになった特許実施報告義務対応の実情

インドの知財動向をタイムリーに伝えるブログサイト “SpicyIP” で、先日、特許実施義務報告に関する興味深い記事を見かけました。筆者もインドの訴訟手続きや用語を正確に把握していないので確言はできませんが、おおよそこんなことを報じています。

「インドの法学者Shamnad Basheer氏が2015年5月21日にデリー高等法院に提起していた公益訴訟(Public Interest Litigation: PIL)において、デリー高等法院は去る9月1日、被告らに対し、4週間以内に答弁すべきこと(file the necessary counter affidavits)を命ずる通知を発行した」
※原告Shamnad Basheer教授は、SpicyIPの運営者です。

本訴訟は政府商業産業省や特許庁長官らを被告として提起されたもので、訴状”Writ Petition”のなかでShamnad Basheer教授は、インド特許法第 146(2)条(インド特許の保有者およびライセンシーに対し特許の実施状況に関する報告を義務づける)の遵守状況を問題視します。

すなわち、教授によれば、特許権者(とりわけ、大手医薬・通信企業の関連企業)およびそのライセンシーが、インドにおける特許の実施状況報告義務を果たしていない、あるいは報告書(Form 27)を提出していても内容が不十分である例が多い。より問題なのは、特許庁サイドもこれを知りながら実質的に放置していることだ、と非難します。そこで、裁判所に対し、特許庁が第146(2)条の義務規定をより厳格に執行し、違反者に対しては第122(1)条に基づく制裁を課すよう指令することを求めているのです。

訴状原文には、Basheer教授が調査機関とともに調べ、また特許庁への情報公開要求(Right To Information: RTI申請)により入手したという実施報告実例の数々が紹介されています。訴状で書かれていることですから原告側の一方的な陳述であり、最終的に裁判所に認定された事実ではありませんが、客観的情報も多く、かなり興味深いものです。以下、そのいくつかを紹介します。

まずは関連する歴史から。
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2005年 インド議会は、TRIPS遵守のために2005年特許改正法を制定。この改正により医薬も物質特許の対象となった。

2009年12月24日 特許庁告示: すべての特許権者が特許発明の商業実施に関する情報を提出するよう指令

2011年4月 Basheer教授が SpicyIP上で”The ‘Non-Working’ of the Patent Office ‘Working’ Requirement”と題するレポートを発表。大手の多国籍医薬メーカーによるForm 27提出義務不遵守の実態を指摘。

2013年2月12日 特許庁告示: 特許権者に対し特許発明の商業実施に関する情報を提出するよう指令。

2013年 特許庁はForm 27提出書類を電子化し、公衆の閲覧を可能とした。しかしそれ以降、開示されたのは2012年と2013年の提出物のみである。

2013年12月10日 Basheer教授は特許庁他の政府機関に情報公開を要求し、実施報告義務を遵守しない特許権者に対して特許庁がとった措置(特許法第122条に基づく違反者への制裁)の詳細を求めた。

2013年12月23日、2014年1月9日、2014年1月30日 特許庁はBasheer教授の情報公開要求に対し、実施報告をしない違反権利者に対しなんらの制裁措置もとっていないと回答。

2015年5月21日 特許庁の回答を受け、本訴訟を提起
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次に、特許権者の報告義務遵守の実態に関する調査結果について。なお、今回の調査は、医薬(とりわけガン、AIDS、糖尿病、肝炎など)、電気通信、公的資金による研究開発成果の3分野に関する特許を対象にしたということです。

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2009年〜2012年のForm 27提出義務違反は、特許権者全体の約35% – 各年ごとでは、2009年(35.69%), 2010年(13.84%), 2011年(30.41), 2012年(36.37%)

さらに提出されていてもその報告内容に不完全なものも多い。たとえば、

Ericsson Inc. は営業秘密対象であることを理由に、実施の詳細情報を開示していない。実施の詳細を述べない特許権者は全体の約40%に及ぶ。なかには「いますぐ出せる情報はない。求められれば提出する」とだけ述べているものもある。

電気通信分野のいくつかの特許権者は、発明の性質ゆえに、特許製品の数量や価額などを開示することは不可能、という(モトローラ・モビリティ他)。このような発言は、自らのビジネス慣行とは正反対のものだ。この分野の特許権者は通常、FRAND条件に基づき特許ライセンスをし、ロイヤルティ支払いに関する監査を可能にするためライセンシーに対しては、実施報告書の提出を厳しく要求している。

また、Form 27では、特許不実施の場合はその理由を述べることを要求しているが、65%以上が理由を述べていない。
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“make in India” キャンペーンによりインドでの「ものつくり」を提唱するモディ政権ですが、この厳しすぎる特許実施報告義務がキャンペーンの足かせになる可能性も、否定できないのではないでしょうか。

(営業推進部 飯野)

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