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2015.12.09

【中国特許法・第4回改正】 草案の再発表とパブコメ募集(2015年12月2日-2016年1月1日)

国務院「中国専利法第4回改正草案(審議送付稿)」を発表

日本技術貿易株式会社 特許第1,2部
中国弁護士・中国弁理士・日本国弁理士
張 華威
I. 専利法第4回改正の経緯
 中国国家知識産権局(以下、「SIPO」という)は、2011年11月から専利法第4回改正の作業をスタートしました。当該法改正におかれましては、2013年1月に専利法第4回改正草案(審議送付稿)が完成し、立法機関である全国人民代表大会常務委員会(以下、「全人代常委会」という)に送付されましたが、(1)全体的に専利の品質レベルが低く、経済及び社会の発展のニーズを満たしていない、(2)侵害行為に対する保護が手薄であり、専利保護の効果と創造主体の期待との間で大きなギャップが存在している、(3)専利発明の運用が不十分であり、専利市場の価値が表れてない、(4)専利の公共的、社会的なサービス能力が弱く、迅速に増加している社会的ニーズとの間で大きなギャップが存在している、との問題が指摘され、草案の見直しが行われました。
 その後、SIPOは専利法第4回改正草案(意見聴取稿)を再度作成して2015年4月1日に発表し、意見聴取を行いました。そして、その意見聴取の結果に基づいて調整された専利法第4回改正草案(審議送付稿)が2015年12月2日に国務院法制事務室のホームページに発表され、再度の意見聴取が行われることになりました。

II. 意見聴取期間及び意見提出方法
聴取期間:2015年12月2日から2016年1月1日まで
聴取対象:何人も可
提出方法:
1. 国務院法制事務室ホームページ(http://www.chinalaw.gov.cn)の意見投稿システムによる提出
2. 国務院法制事務室宛(北京市2067信箱人事处)への書簡による提出
3. Eメール(zlf@chinalaw.gov.cn)による提出

III. 草案における主な改正点
 草案における主な改正点については、今後も適宜調整があるかもしれませんが、現段階で特に重要であると思われる部分を取り上げて簡潔に紹介いたします。

- 部分意匠出願制度の導入(第2条)
 現行法では、全体意匠についてのみ出願することができましたが、今回の改正により、製品の一部の形状、模様またはその組み合わせ、及び色彩と形状、模様の組み合わせが保護の対象に加わり、部分意匠の出願を可能となりました。

- 意匠出願の国内優先権制度の導入(第29条)
 現行法では、意匠出願については国内優先権を主張することができませんでしたが、今回の改正により、中国で初めて出願した日から6ヶ月以内であれば、意匠出願についても国内優先権を主張できるようになりました。

- 意匠権の存続期間の延長(第42条)
 現行法では、意匠の存続期間は「出願日から10年」とされていたところ、今回の改正により、「出願日から15年」まで引き延ばされました。

- 職務発明の範囲(第6条)
 現行法では、(1)本単位(所属する組織)の任務を執行して完成させた発明創造及び(2)主に本単位(所属する組織)の物質技術条件を利用して完成させた発明創造のいずれの場合にも、専利をうける権利は使用者に属するとされておりましたが、今回の改正により、(2)の場合に関しては、使用者と発明者(意匠の場合は創作者)の間の約定に委ね、約定がない場合には、専利をうける権利は発明者または創造者に属するものとしました。なお、職務発明については、職務発明条例の制定も進んでおり、注目されております。

- 審判における職権探知主義の明確化(第41条、第46条)
 現行法では、復審(拒絶査定不服審判)及び無効審判において、審理の範囲が当事者の請求に拘束されない職権探知主義を採用することが明確化されていなかったところ、今回の改正により、必要なときは当事者の審判請求以外の事実についても審査することができることが明確化されました。

- 専利権侵害に対する行政強制執行力(第60条、第67条)
 現行法では、専利権の侵害が発生した場合は、専利行政部門は、その停止を命じることができたものの、侵害品や関連製品の没収や行政罰などの強制執行力は与えられておりませんでした。今回の改正により、団体侵害、重複的な侵害などの市場の秩序を攪乱させるような故意的な専利侵害行為に対しては、もっぱら侵害品を製造するためまたは侵害方法を使用するための部品、道具、金型、設備などを没収し、かつ侵害者に罰金を課することができるようになりました。
 また、専利行政部門は、取得した証拠により専利権侵害行為を処理しまたは取り締まるときは、当事者を尋問し、現場調査し、契約書、領収書、帳簿及び他の関連資料を閲覧、複製することができるようになりました。また、侵害被疑製品を検査し、市場秩序を攪乱し故意に専利権を侵害する製品または専利詐称の製品であることを証拠により証明できるときは、その製品を差し押さえ、留置することができることとしました。
 同時に、強制執行力の実効性を確保するために、専利行政部門の上記業務を拒絶・妨害した者への警告や刑事責任も明確化されました。

- 間接侵害(第62条)
 現行法には専利権の間接侵害に関する規定がなく、二人以上の侵害者が共同行為により権利を侵害する場合や、他人の侵害行為を教唆・幇助した場合には、権利侵害責任法に基づいて連帯責任を求める運用がなされておりましたが、専用品の譲渡などの侵害の蓋然性が高い行為については、権利行使が難しいことが現状でした。今回の改正により、間接侵害の規定が新たに専利法に取り込まれました。
 製品がもっぱら専利の実施に用いられる原材料、中間物、部品、設備であることを知りながら、専利権者の許諾を得ないで、業として当該製品を他人に提供して専利権侵害行為を行った場合は、侵害者と共に連帯責任を負わなければならない旨が規定されました。
 また、製品、方法が専利にかかる製品または方法であることを知りながら、専利権者の許諾を得ないで、業として他人の専利権侵害行為を誘導した場合は、侵害者と共に連帯責任を負わなければならない旨が規定されました。

- ネットワークサービス提供者の連帯責任(第63条)
 近年、中国ではインターネットショッピングによる侵害品の流通が多くみられるようになりました。インターネットを利用した専利権侵害や専利詐称を防止するためには、ネットワークサービス提供者の協力が不可欠であることから、ネットワークサービス提供者の連帯責任が規定されました。
 具体的には、ネットワークサービス提供者が、ユーザがその提供するネットワークサービスを利用して専利権侵害または専利詐称を行っていることを知りながらまたは知らないことにつき過失がある場合において、適時に侵害製品のリンクを削除、不表示、切断するなどの必要な措置を講じてそれを阻止しなかった場合には、連帯責任を負わなければならないこととしました。
 また、専利権者または利害関係人が、ネットワークサービスを利用した専利権侵害または専利詐称が発生している証拠を有する場合、ネットワークサービス提供者にそれを阻止するために上記の必要な措置を講じるよう通知することができ、ネットワークサービス提供者は、その有効的な通知を受けたにもかかわらず適時に必要な措置を講じなかった場合には、損害が拡大した部分について連帯責任を負わなければならないこととしました。
 同様に、専利行政部門が、ネットワークサービスを利用した専利権侵害または専利詐称が発生していると認定した場合は、ネットワークサービス提供者にそれを阻止するために上記の必要な措置を講じるよう通知することができ、ネットワークサービス提供者は、適時に必要な措置を講じなかった場合には、損害が拡大した部分について連帯責任を負わなければならないこととしました。

- 損害賠償責任の強化(第68条)
 現行法では、損害賠償額の算定方法について、専利権者の損失、侵害者の利益、実施許諾料のいずれも確定できない場合は、裁判所の裁量により、1万元以上100万元以下の賠償額を確定することとなっておりましたが、今回の改正により、裁量による賠償額が10万元以上500万元以下まで引き上げられました。
 また、故意に専利権を侵害する者に対しては、裁判所は、侵害行為の状況、規模、損害結果などにより1倍以上3倍以下の懲罰的損害賠償を確定することができることとしました。
 専利権者による損害賠償額の立証が難しいことを鑑みて、専利権者が最大限の努力を尽くしたにもかかわらず、侵害行為にかかる帳簿、資料が侵害者により把握されている場合は、裁判所は、侵害者に侵害行為にかかる帳簿、資料を提供することを命じることができ、侵害者が上記帳簿、資料を提供せずまたは虚偽の帳簿、資料を提供したときは、専利権者の主張及びその提出した証拠により賠償額を確定することができることとしました。

- 当然許諾制度の導入(第82条、第83条、第84条)
 当然許諾制度とは、専利権者が、何人に対しても一定の実施料によりその専利権の実施を許諾する旨の書面による声明をSIPOに対して行うことにより、何人も上記実施料を支払うことにより専利権の実施許諾を受けることができる制度を言います。
 当然許諾にかかる専利権は、SIPOにより公開されます。そして、何人もその専利を実施したい場合には、一定の実施料を支払うことにより平等且つ確実に実施許諾を受けられ、差別的に許諾を拒否されたり、実施料が高くなったりすることはありません。これにより、実施許諾契約の成立に至るまでのコストを大幅に軽減させることができ、発明の利用の促進を図っております。
 なお、無審査で登録される実用新案、意匠について当然許諾の声明を行うときは、専利権者は専利評価報告を提出しなければなりません。これにより、権利の安定性が保障されます。
 また、専利権者は、当然許諾の声明期間中は、当該専利権に対し独占的実施権や排他的実施権を設定できず、訴訟前の仮処分も請求できないこととし、当然許諾の実施権者を保護する規定が設けられました。
 専利権者は、当然許可の声明を取り下げることができますが、声明を取り下げる前に発生した当然許可の効力には影響しないこととし、実施権の実効性を図っております。

- 黙示的許諾制度の導入(第85条)
 黙示的許可制度とは、国家標準(スタンダード)の制定に参与した専利権者が、国家標準の制定の際に、標準必要専利を保有していることを開示しなかった場合において、当該標準の実施者に対して専利権にかかる技術を許諾したものとみなすことを言います。これにより、専利権者が自己の有する専利権を国家標準に取り入れ、不当な利益を図ることを防止できます。
 なお、黙示的許諾制度は無償ではなく、協議により実施料を定めなければなりません。協議が成立しない場合は、SIPOに実施料の裁定を請求することができ、その裁定された金額に不服である場合は、裁判所に起訴することができます。

IV. 改正法の施行日
 上記草案は、今回の意見聴取の結果に基づいて、国務院による審議・調整を経た後、全人代常委会に送付されます。そして、最終的には、全人代常委会での審議において、過半数の全人代常務代表により可決すれば、法律の改正が確定します。
 通常、国務院が意見聴取する時点から全人代常委会が可決するまで10ヵ月から2年間かかります。また、専利法の改正に伴い、専利法実施細則と審査指南の整備も行われると想定されます。これらの状況を踏まえれば、改正法の施行日は早くとも2017年以降になることが見込まれます。

以上

※本件に関するご意見・ご質問は、お問合せフォームより、特許第1部 佐藤までお寄せ頂けますようお願い致します。

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