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2015.12.21
・vol.1: Myriad最高裁判決の実務的影響の変化
・vol.2: 米国におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの実務
・vol.3: Post Allowance Reviewについて(本記事)
Post Allowance Reviewについて
Post Allowance Reviewとは、米国出願において、審査官による審査が終了し、認可通知(Notice of Allowance/Allowability)が発行された際、その内容や出願履歴等を再確認する作業のことです。正しい情報を特許公報に載せるための、出願人側が確認できる実質的な最後の機会ですので、重要な作業の一つです。今回の研修では、そのような重要な業務に日々携わる事務担当としての立場から、Post Allowance Reviewの重要性について学んできました。
結論から言えば、現地代理人によるPost Allowance Reviewは非常に厳密になされているという印象を受けました。訪問したどの事務所でも夫々独自にチェックシートを使って、最終的にそのシートに記載された項目(30項目程度)にすべてチェックがなされ、担当の弁護士自身がサインをするまではIssue Feeの納付はしない方針で認可時のチェックが行われています。また、Notice of Allowanceだけを作業対象にする独立部門(Notice of Allowance Department)を設けている事務所もあり、代理人がPost Allowance Reviewを重要視していることがわかりました。
個人的には、これまで複数の事務所で働いてきた、ある弁護士のコメントが強く印象に残っています。それは、特許の侵害訴訟等に携わった経験の有無で対応のきめ細やかさは変わることが多い、という回答です。どのような些細な瑕疵も特許の無効理由を申し立てる根拠として利用されてしまう可能性があるため、優先権証明書の受領確認にせよ、IDSの審査官考慮の有無にせよ、STATEMENT OF REASONSへのコメント提出にせよ、それ以外のいかなる軽微な瑕疵でさえでも、不利な解釈を後々されないように非常に慎重に対応している、とのことでした。特許の審査は、人の手を介する作業のため、ファイルの履歴には特許庁が原因である場合も含め、何らかの瑕疵が生じるケースが多くあります。それにもかかわらず、ベストを尽くしてきれいな審査履歴を残して、訴訟に直面して相手方から攻撃を受けるような場合でも耐えることができるようにしておくことが必要だ、という説明を受け非常に納得がいきました。確かに、たとえ特許を取得できたとしても、権利行使をする際に負い目があるようではお客様には何ら意味がありません。将来の侵害に対抗しうる質の高い権利を獲得することができて初めて、お客様にとって意味のあるサービスを提供できたことになるはずです。
この説明がまさにぴったり当てはまると感じたのがSTATEMENT OF REASONSへのコメント提出の要否に関する代理人間にみられた見解の相違です。審査官の明らかな間違いがみられるステートメントが発行されてしまった場合において、それに対するコメントの提出が必要、不要の二つの見解に分かれました。不要と判断する理由は、出願人が審査官のSTATEMENTに合意したとは解釈されないという確立した判例があるから法解釈上不要という意見でした。一方、必要と判断する理由は、出願人にとって好ましくない審査履歴を残すと訴訟で不利になる、というのが主な意見でした。確かに単純な法解釈のみならば提出不要という結論でも良いかもしれません。しかし、裁判官も陪審員も特許のエキスパートではないため、訴訟ではUSPTOの審査官の解釈をひとまず重視してしまう傾向にあるそうです。また、莫大な応訴の負担を考えるならわずかの費用でその予防をするほうがはるかに賢い、とコメントした代理人もいました。
研修を終えて
米国特許手続に関するさまざまな情報が得られたことはもちろん大切ですが、案件に関するやりとりだけではわからなかった代理人の人格や雰囲気、考え方、価値観などに触れることができたことが何よりの収穫だと考えます。短い訪問でしたが、実際にアメリカに赴いて代理人と会い、握手をし、言葉を交わすことによるインパクトは想像以上に大きかったというのが実感です。このような機会が与えられたことに深く感謝し、研修により得られた経験を今後の業務に反映させ、質の高い権利を御客様に提供するために自分自身の業務の質をより高めていきたいと思います。
US研修チーム2015
(記事担当:特許第1部 鈴木(事務担当))