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2016.08.20

【Cases & Trends】「フィンテック」特許・知財をめぐる米国最新事情 = 大手金融機関による特許出願ラッシュ、「フィンテック・ローヤー」、「フィンテック・トロール」動向 etc. = [前篇]

[新たな知財ホットエリア - auto-sector, financial-sector]
いま知財の世界で最も注目されているホットエリアといえば、第一に挙げられるのが自動車分野でしょう。Connected Car, Electric Car, Self-Driving Car, Shared Carと、次々に新しいクルマが現れ、自動車産業の形を変えようとしています。業界のプレーヤーも、自動車メーカーやサプライヤーといった既存企業(automotive incumbents)の世界に、様々な新規参入者(new entrants)*が加わり、新たな競争、活気と緊張をもたらしています。
*自動車分野の新規参入者たち: テクノロジーカンパニー (Google, Microsoft, Cisco…), 半導体カンパニー (Qualcomm, Intel, Avago…), EVカンパニー (Tesla, Faraday Future, LeEco…), ライドシェアカンパニー (Uber, lyft, DiDi…) ― “Automotive Technology and IP Outlook”(April 2016 3LP Advisors)より

そしてもうひとつのホットエリアが金融分野、特に金融とITが組み合わされた「フィンテック(FinTech)」という分野です。2010年には銀行口座を持つ40%の人が毎週銀行の支店に足を運び、モバイルバンキング利用者は9%にすぎなかった米国では、2014年にはそれぞれ27%、28%とその比率が大きく変化しています。この変化に伴い、銀行、カード会社、保険会社などのfinancial incumbentsの世界に、最先端のITを駆使し、投資家の潤沢な資金援助を受けた金融系ITベンチャーというnew entrantsが加わり、新たな世界を形成しつつあるといいます。

再度自動車分野の話に戻りますが、前出3LP Advisorsレポートでは、今後、自動車業界が直面する重要な4つの戦略的技術・知財問題として以下の4つを挙げています。
・権利獲得競争(Technology ownership battle)
・NPE訴訟の増加(Rise of NPE litigation)
・新たな技術標準の進展(Development of new technology standards)
・中国の台頭(Emergence of China)
そして、この新たな競争世界では、これまで以上に「特許力、知財力」がモノを言うことになろう、と指摘します。詳細はレポート本文をご参照ください。
— ちなみに3LPの筆頭コンサルタントであるKevin Rivette氏は、1999年に出版された後、すぐに世界各国で翻訳出版され、世界的な知的資産管理(IAM)ブームの火付け役となった書籍”Rembrandts in the Attic”の著者としても有名です。「屋根裏部屋に眠っていたレンブラントの絵」…それと同様に「特許」という貴重な資産が社内知財部のファイルキャビネットの中で眠っている!…という経営者向け知財啓発の書です —

[フィンテック特許・法務最前線 – 権利獲得競争、弁護士獲得競争、トロール対策]
こうした自動車の世界と同様の変革が、金融の世界でも求められることになるのか。既存、新規参入それぞれのフィンテック・プレーヤーたちは、特許/知財について今後どのような課題に直面し、どのように対応しようとしているのか。
日本でも連日フィンテックの話題が経済紙、一般紙上で見られるようになりましたが、特許や知財に触れるものは、いまのところ非常に少ないです。そこで、今年(2016年)に入ってから目についた、米国の関連記事やレポートを中心に、現状を探りたいと思います。

関連記事・レポート
1)ウォールストリートで展開されるフィンテック特許取得レース (March 2, 2016 Berkeley Law)
2)フィンテック・ビジネスに賭ける米大手金融機関の特許出願ラッシュ (May 10, 2016 WSJ)
3)既存テクノロジーカンパニーを上回る金融機関のフィンテック特許出願 (FEB. 16, 2016 PatentVue)
4)フィンテック・パテントトロールを勝たせるな (April 28, 2016 American Banker)
5)パテントトロール阻止を目的に、ロシアで「ビットコイン」商標登録(April 18, 2016 Bitcoin.com)
6)金融サービス会社をターゲットとする特許訴訟のリスク(July 2016 RPX Patent Risk Digest)
7)フィンテックブームで急増する「フィンテック・ローヤー」の社内弁護士募集 (July 8, 2016 Corporate Counsel)

[大手金融機関による特許出願急増とその理由]
まず目立つのが、大手金融機関によるフィンテック関連特許出願の急増を伝える記事です。WSJ記事(2)は、「大手銀行やクレジットカード会社が、金融サービスのカギとなる技術について特許出願を加速させている。2013年以降、金融機関は、ブロックチェーン、アナリティクス、サイバーセキュリティなどのホットエリアにおいて、少なくとも2,679件の特許出願を申請している。この件数は2000年~2012年の3年間に出願された合計件数の83%増に相当する。さらに出願後18ヶ月経過していない未公開の特許出願もかなり存在すると見られている」といいます(下表参照)。

そして、出願増の背景、狙いについて、次のように説明しています。
「イノベーション投資の保護がひとつの理由。J.P.モルガン・チェースの場合、2015年に22件の特許出願をし(アナリティクス、IoT、クラウド、ブロックチェーン等)、2016年4月現在では前年を50%上回る出願件数となっている。2016年の金融技術投資額92億ドルであり、『これだけの投資をした我々の技術について、他社の特許により締め出されるような事態を回避しなければならない』(Andy Cadel, JPモルガン・ゼネラルカウンセル)ということだ。米国では、金融工学に強みを持つスタートアップ企業が特許確保を進めており、投資家の援助を受けて(2015年だけでもベンチャーキャピタルから216億ドルを調達)、金融サービス会社の設立も計画しているのだ」

大手金融機関が特許出願に拍車をかけている背景のひとつとして、このようなフィンテック・スタートアップによる特許の脅威が存在するというのです。このことは、BerkeleyLaw記事(1)でも指摘されています。

このように大手金融機関を警戒させるフィンテック・スタートアップですが、彼らにとって脅威になるのが、「フィンテック・パテントトロール」です。フィンテック・パテントトロールとは何か、また、彼らへの対抗策として、企業側は何を講じているのか。さらに、トロール対策のみならず、金融行政上の様々な規制をクリアしてビジネスをサポートする「フィンテック・ローヤー」とは…。次回「後篇」では、彼らフィンテック世界の「バイプレーヤー」(?) について触れたいと思います。

(営業推進部 飯野)

※上述の「関連記事・レポート」出典は以下のとおり
1) Wall Street Races to Secure FinTech Patents (Ziqun Guo, March 2, 2016 Berkeley Law)
2) Big Banks Stake Fintech Claims With Patent Application Surge (Kim S. Nash, May 10, 2016 Blogs Wall Street Journal)
3) Banks Outpace Technology Companies with FinTech Patents (MAULIN SHAH  FEBRUARY 16, 2016 PatentVue by Envision IP)
4) Fintech Patent Trolls Can’t Be Allowed to Win (Mark Sole, April 28, 2016 American Banker)
5) ‘Bitcoin’ Becomes Trademark in Russia to Prevent ‘Patent Trolls’ (Allen Scott, Apr. 18, 2016 Bitcon.com)
6) Patent Suits Target Financial Services Companies (RPX Patent Risk Digest July 2016)
7) Fintech Boom Leads to In-House Hiring Surge (David Ruiz, July 8, 2016, Corporate Counsel)

10大銀行、大手クレジットカード会社のフィンテック分野特許出願(米国 2013~2015)
*キーワードサーチによる公開特許収集(Relecura Inc.データ。前出WSJ記事掲載)

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