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2016.10.26
毎年恒例、中国視察ツアーのメインイベントとも言える現地開催セミナー&カクテルレセプション。 例年、中国駐在の日本企業様や現地代理人事務所も多数ご招待してご好評を頂いているが、今回講師としてお迎えしたのは、石必勝弁護士。 北京市海淀区人民法院と北京市高級人民法院知的財産廷で昨年末まで裁判官を歴任し、現職は金杜律師事務所(King&Wood Mallesons法律事務所)のパートナーを務めるホットな人材だ。 「中国特許裁判の動向と発展」というタイトルにて、訴訟件数の推移、注目される司法解釈(二)の説明、そして今後増加が見込まれる中国企業の提訴に備えるための日本企業へのアドバイスなど、広範にお話を頂いた。 なお日本語への通訳は、NGB顧問の中国人弁護士にして日本の弁理士資格も併せ持つ、張華威が務めた。
石先生はまず、中国における知財訴訟が増えているという事実を改めてグラフ(下左スライド)で示す。 2013年以降の3年間で112,000件 -> 134,000件 -> 149,000件と新規案件数は毎年増加。 権利の種別としては著作権案件が全体の半分以上を占め、その多くがインターネット関連の事件とのこと。 件数では商標事件がそれに続き、専利(特許・実案・意匠)は最も少ない・・・とはいえ、専利の第一審事件は凡そ12,000件で毎年1割程度安定的に増加している等のご説明を頂いた。
事件数では著作権に及ばないものの、石先生は、北京知識産権法院の設立が専利/商標四法の認定賠償額を押し上げている可能性に言及する。 同法院の2015年平均認定賠償額のグラフ(上右スライド)を示して「商標の賠償金額は60万元だが、通常は10万元から20万元しか認められていない。 特許についても以前の統計では8万元から10万元が相場だったが、ここではやはり60万元を超えている」と、いずれも北京知識産権法院が従来よりも高額の賠償額を認定していることを指摘。 知識産権法院は元々権利者側に有利な判決を出す傾向にあることに加え、特に最近は裁判官の給料が上がったことがその原因では?と石先生は推測する。 「裁判官の給料と賠償額については密接な関係があると思う。 例えば1万元しかもらえない地方裁判官にとっては10万元は大金だが、もし月給が10万元あれば100万元くらいないと大きな金額とは言えなくなる」。
■優秀な弁護士とは?
「決して営業ではありませんが」と前置きして会場を沸かせる石先生。 セミナーの締めくくりとして、当事者がどのように優秀な弁護士を選定するか、その基準を具体的にお話頂いた。
(1) 技術に関して熟知しているか
(2) 理解している技術内容を裁判官へ正確に伝えることができるかどうか
(3) 争点を明確につかめるかどうか
(4) 説得力があるか (裁判官を誘導し、説得できるか)
(5) 裁判官の癖を理解しているか(裁判官の考え方の把握)
(6) 訴訟の位置付けをとらえているか(侵害訴訟、無効審判ともに扱えるか)
会場から出た「裁判官を説得する能力とは?」とのご質問に対しては「裁判官によって受け止め方が異なる。 自分が裁判官だったときには、演出する能力よりも、正確に技術説明ができる能力を重視していた。 全ての裁判官が演出性を好むとは限らないので、技術をしっかりと理解し、正確に説明ができる弁護士の方が、役に立つのではないかと思う」。 自らの経験に裏打ちされたアドバイスを惜しみなくご提供下さる石先生に、この場を借りて改めてお礼を申し上げたい。
(営業推進部 柏原)