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2016.12.21
深セン税関に続いてこちらも初の訪問先となる香港税関では、版権及商標調査科高級監督の葉慧嬋氏 (Ms. Catherine Yip)他、全5名の方々にご対応頂いた。訪問アポイントならびに同行サポートを快く引受けて頂いたBird & Bird LLP 北京オフィスパートナー道下理恵子弁護士ならびに香港オフィスパートナー David Allison 弁護士からは、訪問の前日にショートレクチャーを受けている。「一国二制度」の下で香港独自のシステムがどのように有効に活用されているのか、一同期待に胸を膨らませての訪問となった。
上右のスライドは香港における知財保護を管轄する行政組織図。「商務及経済発展局」 (Commerce and Economic Development Bureau) の下に「知識産権署」 (Intellectual Property Department) と「香港海関」 (Customs and Excise Department) が位置づけられており、中でも海関(税関)は、知財に関して唯一刑事告発出来る権限を与えられている。香港税関の管轄は、ボーダーでしか取締まりが出来ない中国税関とは異なり、市中で販売されている商品にも及ぶ。香港税関は、いわば中国のAIC(工商行政管理局)のような強力な機能を持っているということだ。職員数は、知財部門スタッフが250名、他に情報分析部門に200名。更に港湾・空港の現場で模倣品の調査・取締を担当するスタッフが300名ほど。税関が管轄する権利の種別は商標と著作権であり、特許と意匠については民事訴訟で争うことになる。
■税関登録と権利行使
香港税関への権利の登録手続きは、中国と比べてかなり複雑だ。詳細な説明はここでは省くが、特に以下の2点が手続き上の大きな特徴である。
(1) 侵害の発生がなければ権利登録出来ない
中国では侵害が発生する前に権利の登録が可能であり、むしろ推奨されていたが、香港では(少なくとも初回の登録は)侵害品の存在が登録の前提となる。権利者が侵害品を発見して税関に申請するか、或いは侵害品を自主的に発見した税関が権利者にコンタクトして登録を勧めるか、いずれかのステップを経て登録手続きに入ることになる。
(2) 権利者が鑑定者(Examiner)を選任し、税関による面談審査を受ける
権利者は、商品知識が豊富でかつそれらの販売に関する社内情報にアクセス出来る立場の鑑定者を選任し、税関の面談をパスする必要がある。将来的に刑事事件に発展した際には証言台に立つことになるので、その人選は非常に重要である。
■日本企業の利用状況
上記の様なステップを経て香港税関に登録がなされた、日本企業の商標一覧も見せて頂いたが、数えてみたところ79商標。一方で、税関が模倣品を見つけて権利者(と思われる企業)にコンタクトを試みながらも、回答が無かったりそもそも連絡がつかなかったりした日本の商標も24あった。いずれも、玩具、服飾、スポーツ用品、薬品、自動車部品・・・と対象商品は多岐にわたる。差止めの件数は、下左のスライドに示されるように年間150件前後で若干増加傾向にある。訪問団のお一人からは「香港税関からは、登録をしていないのに侵害品発見の連絡を頂いたことがあり、世界にはそのような対応をして下さる税関があるのだと感動しました」と、お礼の言葉が述べられる一幕もあった。
香港税関では、権利者の負担軽減のため2014年に新しいシステムElectronic Recordation and Triage Centre (ERTC) を導入。テレビ会議システムは、遠隔地や海外在住の鑑定者との面談に利用出来る。ただしエンフォースメントに入ってから、例えば真贋判定などにはテレビ会議の利用は認めらないので要注意。もう一つの秘密兵器として3Dプリンターも購入、権利者から3Dファイルデータの提供を受けて即時に“正規品”サンプルを用意することが可能。「商品が重くかさばる場合の送料を軽減し、また日程の限られた展示会など至急でサンプルが必要なケースで有用です」と、サンプルを手に力強く訴えておられた(写真上右)。
最後に葉慧嬋氏 (Ms. Catherine Yip) より、日本企業向けに頂いたメッセージを掲載する。
「税関の立場から皆さまに一つお願いです。エンフォースメントに入るためには権利者からの登録が前提となります。市場・消費者や他のエンフォースメント機関からの通知に基づき権利者にコンタクトしても、登録を行わないケースがかなりあります。権利者様には登録についてのご協力を引き続きお願いしたいと思います」
(営業推進部 柏原)