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2017.08.17
中国で事業を展開する際、リスク回避のため中国意匠を対象とした侵害防止調査が必要であるが、この膨大な件数を調査するにはかなりの費用・工数が必要となってしまう。
ただし、侵害防止調査では原則として既に権利が消滅している意匠を調査する必要はないため、中国意匠の消滅率が高い場合、権利が消滅している意匠を調査対象から除外することで、調査にかかる費用・工数を大幅に削減することが可能となる。
上記背景を鑑み、中国意匠の生死傾向(権利の存続、消滅の傾向)について全体、出願年別、分類別の3項目について分析を行った。
1. 全体傾向(グラフ1)
中国意匠全体について、生死の割合を検証した。尚、中国意匠の権利期間は出願日から最長10年であるため、2007月6月1日以降に出願された中国意匠を調査対象とした。
意匠出願件数:3,362,435件(生死内訳 生存:1395610件/ 消滅:1966825件)
※下記グラフ1は、2017年5月29日時点のデータに基づいて作成
2. 出願年別傾向(グラフ2)
2007年以降に出願された中国意匠について、各出願年の生存件数、消滅件数を確認し、出願年別の生死割合を検証した。
※下記グラフ2は、2017年5月29日時点のデータに基づいて作成
2007月6月1日以降に出願された中国意匠を対象に、ロカルノ分類の各クラス(1~32)について、クラス別の生死割合を検証した。
※下記グラフ3及び表1は、2017年5月29日時点のデータに基づいて作成
上記グラフは、ロカルノ分類の各クラスを消滅の割合が大きい順に左から並べたものである。最も生存割合の高いクラスはクラス12の64.2%、最も生存率の低いクラスはクラス5の15.2%であり、クラスによって生死割合にかなり差があることがわかる。
生存率が高い(60%以上)のクラス及び、生存率が低い(40%以下)クラスの分類定義及び件数は下記表1の通りである。各クラス群を比較すると生存率が低いクラスは、高いクラスに比べて、比較的単純な構造の物品が多く含まれている傾向にある。
また、最も生存率が高いクラス(12)と、最も生存率が低いクラス(5)の2007~2016年の出願における、2015~2016年の出願割合を検証したところ、クラス12では、30%を超えているのに対して、クラス5では、13%であった。このように、近年の出願件数割合についても、クラス別の生死割合に影響を与えていると推察される。
上記の通り、中国意匠の生死傾向について分析を行い、中国意匠の消滅率が高い傾向にあることが確認できた。このことから、中国意匠の侵害防止調査において、権利が消滅している意匠を調査対象から除外することは、調査を効率的に実施するために非常に有用であることがわかった。
また、中国意匠のその他の傾向として、出願から消滅までの期間が短い点、ロカルノ分類のクラスによって消滅率にバラつきがある点が確認できた。特に、消滅率の高さ、消滅までの期間が短さについては、権利活用以外を目的とした出願、部分意匠制度がない点が背景にあると推察される。
部分意匠については、中国における専利法第4回改正の草案に含まれているため、法改正後、中国意匠の生死動向に変化が生じるのかについても注目である。
(IP総研 馬場)