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2017.08.24

中国:杭州インターネット法院を設立

日本技術貿易株式会社 顧問
中国弁護士・中国弁理士・日本国弁理士
張 華威
2017年8月18日、中国・杭州にインターネット関連事件を専門的に審理する杭州インターネット法院が設立され、元杭州鉄道運輸法院院長の杜前氏が杭州インターネット法院の院長として任命された。インターネット関連事件を審理する専門裁判所を設立する試みは世界的に見ても初めてだと思われる。

1.設立の背景
インターネット法院が杭州で設立された背景として、杭州には「阿里巴巴(ALIBABA)」、「支付宝(ALIPAY)」、「淘宝(TAOBAO)」、「天猫(TMall)」、「網易(NETEASE)」などの大手インターネット企業が集中しており、インターネット産業の発達している地域であることが考えられる。中国では近年、オンラインショッピング、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどインターネットサービスが普及したことに伴い、インターネット関連の紛争事件が急増した。これらの事件を効率よく審理するため、浙江省高級人民法院は2015年4月から西湖区、濱江区、余杭区の基層人民法院及び杭州市中級人民法院に試験的にオンライン法廷を設立させた。同年8月には、浙江法院オンラインサイトが立ち上げられ、オンラインによる訴訟手続が可能となった。2017年4月、最高人民法院はインターネット関連事件の第一審の管轄を杭州鉄道運輸法院に集中させる決定を行った。そして現在、その権能を独立したインターネット専門法院が担うことになる。

2.オンラインによる手続
杭州インターネット法院の最大の特徴は、「インターネットで生じた紛争はインターネット上で解決する」ことを実現したことである。当事者は、当該法院専用サイト(http://www.netcourt.gov.cn/portal/main/domain/index.htm)またはアプリを通じて、提訴から受理、送達、証拠の提出、審理、判決の言い渡し、さらには執行までの一連の手続をオンラインで行うことができ、これらの手続はすべてサーバ上に記録が残るようになっている。具体的には、当該プラットフォームは公安機関のデータベースに通信可能となっており、オンライン上の顔認識による身分認証を行うことができる。当事者は、提訴または応訴の電子フォームを記入し、訴訟費用をオンラインで納付する。事件が受理された後は、インターネットサービスサイト上で形成された証拠をプラットフォームに自動的に取り入れることができ、それ以外の証拠はスキャンなどにより電子化してアップロードすることができる。開廷審理もテレビ会議システムで行われる。そのため、当事者は自宅から一歩たりとも離れずにすべての訴訟手続を行うことができ、時間と交通費を大幅に節約できる。
無論、オンライン手続は当事者双方の同意を前提とし、一方が反対すれば伝統的な方式で手続することになる。

3.裁判管轄
杭州インターネット法院の管轄範囲は、浙江省杭州市内の基層人民法院が管轄権を有するインターネット関連民事事件、行政事件に限られる。具体的には、以下の類型の事件に限られる。
(1)オンラインのショッピング、サービス、少額消費貸借契約紛争事件
(2)インターネット著作権帰属および侵害紛争事件
(3)インターネットを利用した人格権侵害紛争事件
(4)オンラインショッピング製品責任紛争事件
(5)インターネットドメインネーム紛争事件
(6)インターネット行政管理に起因する行政紛争事件

なお、杭州インターネット法院の判決に不服である場合は、杭州中級人民法院に控訴することになる。

以上

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