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2017.10.17
新制度に向けてのカウントダウンとして開始した当連載も、早いもので第5回目を迎えました。
連載当初は、今頃の時期には新制度の開始に関する何かしらの合図が出ているであろう・・という想定をしておりましたが、その後、ドイツやイギリスにおいてUPC協定の批准に遅れが生じ、UPCのウェブサイトでも制度開始の遅れが発表されました。しかし、どの程度遅れるのかといった具体的なスケジュールについては発表がありませんでした。
そこで、本連載の筆者らは実際に欧州へと赴き、現地の最新状況を確認して参りました。
訪問期間:2017年9月17日(日)~2017年9月23日(土)
訪問都市:ロンドン、ルクセンブルク、ミュンヘン
訪問先:UPC準備委員会、UPC施設、欧州特許庁、各都市の複数の特許事務所
訪問者:特許第1部 高橋、田中
UPC準備委員会事務局長のEileen Tottle氏と面会しました。面会場所は、イギリス知的財産庁のロンドンオフィス。地下鉄のSt James’s Park駅から徒歩5分程のところに位置しています。
Tottle氏の準備委員会での役割はプロジェクトマネージャです。印象的だったのは、準備委員会はEUや各国から独立した組織であるため、予算管理や会議準備なども自分たちで行う必要があることです。さらに、欧州各国をまたぐ組織であるため、ミーティングのために各国を飛び回っているとのこと。そのため、かなり多忙な様子でしたが、今回の面会では新制度の現況について詳しく説明してくださり、また、我々の質問に対しても丁寧に回答してくださいました。
現在は、準備委員会の小委員会である運営チームが毎月ミーティングを行っています。ミーティングの目的は、裁判官の任命、UPCのCase Management System、新たな業務のための財政システムの構築等、運営面での課題に対処することです。我々が訪問した前の週には、UPC協定に対するドイツの憲法裁判所への違憲申立の影響について、特に、これが今後のスケジュールに対してどのように影響を与えるのかについて、ミーティングが開催されたようです。当初は、裁判所が訴えを棄却することを予想する楽観的な意見もあったようですが、なかなか状況が把握できず、現在は待つしかない状況のようです。そのため、システムを担当しているルクセンブルクチームは、Case Management Systemをさらにアップデートする予定は現在ありません。システムの整備を含め、準備委員会の作業自体は順調に進んでいるため、その分、ドイツの状況にもどかしさを感じている印象を受けました。
なかなかこういう機会もないかと思い、ロンドン及びルクセンブルクに設置予定のUPCの施設を訪問して参りました。
・UPC中央部のロンドン支所
UPC中央部のロンドン支所は、ロンドン中心部の東側、地下鉄のAldgate East駅を出てすぐのAldgate Towerの3階に設置される予定です。Aldgate Towerは、2014年に完成した比較的新しいオフィスビルです。UPC中央部のロンドン支所は、主に、IPC分類A(生活必需品)とC(化学;冶金)の無効訴訟を扱うことになっています。訪問時は、残念ながら配線工事中で法廷を見ることはできませんでしたが、Tottle氏が法廷の写真を提供してくださいました。
・UPC控訴裁判所
UPCの控訴裁判所は、ルクセンブルクの中心部から車で10分程のところに位置する建物内に設置される予定です。現在は、EFTA(欧州自由貿易連合)裁判所が入っている建物です。
訪問のアポイントメントを取っていなかったため、受付で少し話を聞いてみることにしました。しかし、「Unified Patent Courtについてお話をお伺いしたいのですが、」と英語で尋ねましたが、上手く伝わりませんでした。相手がネイティブイングリッシュスピーカーではなかったというのも理由の一つですが、「Unified Patent Court」という言葉になじみがないようです。その後、「UPC?」と尋ねたら、「あー、UPCね!」という感じでようやく伝わりました。
なお、建物の玄関には、既存の “EFTA COURT” の看板の下に、おなじみの “Unified Patent Court” のロゴが印刷された紙が貼ってありました。まだまだ設置準備中、という印象です。
*筆者は中心部から徒歩で向かいましたが、建物は丘の上に位置していますので、車で向かわれた方が賢明かもしれません。
=>第5回:欧州視察報告-後篇-に続く