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2017.11.20

【中国視察2017】 [3] 北京市中信公証役場

NGBは、クライアント企業様8社(9名)のご参加を得て、9月4日 (月) – 8日 (金) の日程にて中国視察ツアーを催行した。 本稿では、視察先の一つである北京市中信公証役場の訪問記録をご紹介する。

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いまや本ツアーの定番となっている公証役場訪問であるが、今回は同役場から唐骞公証員、同役場の公証第一部リュウ部長に出席いただき、改めて中国公証制度の基本説明をいただくとともに、公証サービスの実務レベルでの説明ならびに視察団との議論を行った。併せて、China-IPPublication.netサービス提供で協力関係のある崔暁光弁護士にも同席をいただき、的確な助言をいただきながら意見交換が行われた。

[中国公証制度の歴史]
中国の公証制度が開始されたのは1950年代であるが、当時は渉外関係の公証に限られており、本格的な公証業務が始まったのは1978年から。中国の公証役場は当初、人民法院の組織下にある一機関という役割だったが、1980年頃人民法院から独立した。その後も2000年までは司法局下にあったが、同年後ひとつの独立した法人となり、現在に至っている。

[中国公証制度を特徴づける3つの効力]
1. 証拠としての信憑性の高さ。
特に訴訟などにおいて、公証書を提出することにより、それが事実であることが直接認定される。これを覆すような反証が出されない限り、事実として認定される。これは訴訟活動において、立証責任の転換に相当する。すなわち、立証責任を有する当事者が公証を経た証拠を提出することにより、相手方当事者側にこれに対する反証をする責任が転換されることになる。訴訟活動における証拠の公証は、公証役場における業務全体の大きな割合を占めている。特に証拠保全の場合の公証が大きな業務になっている。

2.法律文書に強制執行能力を与えること。
たとえば、消費貸借契約を公証することにより、訴訟を経ずに、直接公証した契約書に基づいて強制執行を請求することが可能になる。

3.公証を経ることが効力発生要件になる(ものもある)。
*ただし、これについて定めた法律がなく、公証役場としても、立法化に向けて働きかけているとこだという。

[実務上、公証が必要になる場合]
1.親族、相続関連の公証。特に不動産に関する相続の場合、公証を経ていないと不動産の移転手続きができない。

2.商事関連の公証。たとえば、金銭の貸し借り、融資、レンタルなどのビジネス場面において使われる。

3.裁判所における証拠の公証。証拠の収集や証拠の固定において公証が用いられることにより、事実の認定がなされる。

4.取引、売買の際の資金の管理に関する公証。たとえば、不動産売買の際に先に公証役場に代金を預ける。ある条件を満たした場合に初めて、預かった代金が公証役場から売主に渡されるという、ある意味、担保機能を果たしている。

5.国家間やりとり。たとえば、中国人が日本に留学しようとする場合、関連書類を提供する必要があるが、このような国家間でやり取りする書類の信憑性に関しては公証を経た文書でないと信頼されないことが少なくない。

[質疑応答(抜粋)]

Q: 訴訟を起こすことを想定して証拠保全をする場合に公証制度を利用することが多いと思う。その場合、例えば公証人にセミナーに参加してもらい録音するとか、模倣品の販売場所へ行ってサンプルを買ってもらうことができると聞いている。その場合、周りの人にわからないようにする、私立探偵のようなことも必要になると思うが、公証人はそのような訓練も受けているのか。

A: そのような教育はある。新人公証人に対する教育プログラムの中に含まれている。

Q: 公証役場の方は身分を聞かれたとき正しく答えなければならない、と聞いたことがある。仮に香港の人間だといって物を買いに行く場合に販売者から身分を聞かれたとき、どうするのか。

A: この業界内に存在するガイドラインによれば、たとえば公証購買のとき申請人の便宜のために公証人の身分を明かさなくてもよい旨が記載されている。具体的には、公証購買で公証人が同行する場合、公証人自身は噓をついてはいけないので、販売者に身分を聞かれた場合、購入者がすべて回答をし、公証人については「自社の経理担当だ」などと回答する。このとき公証人は一切答えることはない。このようなことを事前に打ち合わせておく。

Q: 被疑侵害品を作っている工場で事実を公証することは非常に難易度が高いと聞いたが、「そこで作っているらしいと聞いているのですが、どうしたらいいでしょうか」といった相談をすることはできるか。また、工場立ち入りなどの具体的事例はあるか。

A: 一般的なやり方として、まず調査会社の人間が工場内に入る。その調査会社の情報に基づき、その工場が被疑製品を作っているのか否か把握したうえで公証人を要請し、一緒に工場内に立ち入るという段取りになる。情報が不確かな場合、公証人は立ち入りをしない。

Q: 実際に工場立ち入りをするケースは年間にどれくらいあるのか。

A: 数年前は多かったが、ここ2,3年は特に南の方の工場では危険もあり、この地区を管轄する公証役場による立ち入りの数はかなり減っている。当公証役場も工場への立ち入りは多くない。
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毎年恒例となっている訪問であるが、中国知財保護における公証役場の役割が年々高まっていることが今回も感じられた。公証役場の前に訪問した北京知財法院でも、公証について質問したところ「知的財産訴訟においてよく利用される」との回答がすぐ出てきた。

とりわけネット経由の侵害事例が急増しているいま、違法ECサイトの断片的画像について証拠資料として提出するだけでは不十分であり、違法ECサイトへのアクセス段階から同サイトからの指示画面、最終商品(模倣品)発送手続きに至るまでの一連の画像・資料を適切に抽出し公証する作業(「証拠チェーン」の確立)が非常に重要なのだという。実際このような作業が公証員を通じて実施された公証記録を、ある法律事務所で見せてもらったところ、かなり分厚い公証書類になっていた。

いずれにせよ、知財保護の対象領域を拡大しつつ専門性を高めている中国公証役場の活用を、日本企業による中国知財戦略にひとつに加えるべき必要性というものを改めて感じた訪問であった。

(担当 飯野) 

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