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2018.12.20

【Cases & Trends】 2018年米中貿易摩擦の焦点、「強制的技術移転」政策とは — 「自主創新政策」摩擦への遡り

米中の貿易摩擦がまさに「貿易戦争」の様相を呈しつつあります。貿易不均衡への不満より、「根底にあるのは次世代移動通信システム5Gを始めとする先端技術の覇権争い」、「トランプ政権としては『中国製造2025』をつぶすのが目的…」など、日々の報道の他に識者・専門家の解説・分析を多く目にするようになりました。

非常に高度な政治的駆け引きの世界なのだと思いますが、米国側が一貫して具体的な論点としているのが中国政府による「強制的技術移転(Forced Technology Transfer: FTT)政策です。USTR(米通商代表部)が2018年3月に公表した通商法301条調査報告書も主要論点の一つとしてFTT政策を明記しています。(*USTRは2018年11月20日付でその後の中国対応状況などを調査した追加報告書を公表)

この301条調査報告において、現在のFTT政策につながる中国の産業政策のなかでも、最も重要な政策のひとつとして指摘されているのが、「国家中長期科学技術発展計画(2006ー2020)」を指摘です。この中長期計画の考えが「中国製造2025」にも反映されているといいます。

…前置きが長くなりましたが、今回は、この中長期科学技術計画に関する米中摩擦について7年前に書いた記事を一部再掲載したいと思います。現在の米中貿易摩擦について知る、材料のひとつになれば幸いです。
(*本稿タイトルの「自主創新政策」とはこの中長期計画を実施するための諸々の重要政策を総称するものです)

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【Cases and Trends】 中国、政府調達規則の一部廃止 – 米国が警戒・批判する自主創新政策で中国が譲歩? (2011/08/23)
我が国では記録的に早い梅雨明けとなった6月末から7月初めにかけ、欧米のメディア(Reuter, Forbes他)を中心に、「中国が自主創新政策を一部撤回」、「中国が米国の圧力を受け、政府調達規則を緩和」といったニュースが相次いで流れました。別のメディアでは、「北京が、政府調達プロジェクトにおける、強制的知的財産移転(Mandatory IP Transfer)を廃止」(China Briefing 7/4/2011)と報じています。

廃止を訴えていた米国商工会議所、欧州商工会議所などは、中国政府の決定を歓迎しつつも、「今回の決定はあくまで中央政府レベルのもの。さらに地方政府や国有企業レベルでも、早期に同様の措置がとられることを願う」とコメントしています。

ここまで読んだ段階でニュースの内容を把握された(あるいはすでに熟知されている)読者は別として、このニュースを理解するためには、「自主創新(政策)」、「政府調達規則」、「強制的知的財産移転」というキーワードおよびそれぞれの関係を知っておく必要があると思います。今回は、その解説を手短にしつつ、今回のニュースの意味を確認したいと思います。

まず、「自主創新政策(Indigenous Innovation policies)」とは、……文字通り、中国独自のイノベーション、独自知財・ブランドの創出を目指す政策です。自主創新という考え自体は特別新しいものではないのですが、冒頭のニュースや米政府・企業が問題視する文脈において用いられている自主創新政策とは、2006に中国政府が発表した「国家中長期科学技術発展計画(2006ー2020)」において重要政策として掲げられたものを指しています(欧米で語られる場合、単に”MLP”(中長期計画)という略称がよく使われます)。

2020年までに他国からの技術依存度を50%から30%に削減し、2050年までには科学技術において世界の強国となることを大目標としています。なかでも特許・知的財産戦略は非常に重要視されており、特許出願件数としては2015年までに200万件を目標として掲げています(実用新案、意匠含む)。

実際、政府の補助もあって多くの中国企業が権利武装をした結果、いまや中国は件数で米国をはるかに超える「訴訟大国」となったことは広く知られているところです(2010年の米国における特許訴訟件数3,605件に対し、同年の中国特許訴訟件数は5,700件(実用新案、意匠含む)。もっとも訴訟大国になることは国家目標ではないでしょうが)

自主創新を実現するための政策とは、「政府調達規則」、技術標準化政策(特許取扱い規則)、独占禁止法、ハイテク企業認定規則、特許法(改正)など、さまざまな分野にわたって展開されており、2009年辺りからそれぞれの具体的規則案が明らかになるにつれ、その強気の姿勢ゆえに(「中国市場にアクセスしたいならば、あなたの技術・知財を開示・提供してください」といった「強制的知的財産移転」タイプの要件が含まれている)、2006年の発表当時はさほど注目されなかった自主創新政策が、俄然注目(警戒)されるようになりました。

中国進出企業の不安の高まりに応ずべく、在中国米商工会議所は、”China’s Drive for “Indigenous Innovation”: A Web of Industrial Policies”(「『自主創新』へと突き進む中国:入り組んだ産業政策の網」)と題するレポートを2010年7月に作成し、中国自主創新政策の背景、諸政策の概要、影響等に関する分析を提供、米国では多くの企業幹部に読まれているということです。

同リポートでは、自主創新政策の根本を次のように指摘し、その実態は「かつてない大規模技術窃取のブループリント」と多くの国際企業に警戒されているとまで言っています。
『この中長期計画は、中国が独自知財と固有の製品を創造するカギは「外国技術を微調整して取り込むこと」と明言する。正に「自主創新」とは、輸入技術を取り込むことにより、オリジナル・イノベーションを共同イノベーションと再イノベーション(co-innovation and re-innovation) を通じて高めること、と定義しているのだ』

….. 「かつてない大規模技術窃取のブループリント」は言い過ぎにしても、輸入技術の再イノベーションによりオリジナル・イノベーションを確立したという言い分は、なるほどつい最近、新幹線問題で耳にしたばかりです。

さて、以上を背景に今回報道のあった政府調達規則に戻ります。まず、中国政府向け調達品は1兆ドルの巨大市場になっているといわれています(政府機関だけでなく、国有企業による調達も含む)。米国をはじめ多くの外資系企業がこの巨大市場の開放を求めているわけですが、すでに2003年に施行された政府調達法が自国製品、工事及びサービスを優先的に調達することが明確に規定されているなど、もともと外資系企業にとってはハードルの高い状態が存在していました。

そのような環境の上に、さらに自主創新政策に基づき、中国の特許・商標が使われた製品を優遇する旨の規則案が出されてきました。例えば2009年に開始された自主創新製品認定制度では、政府調達品として優遇を受ける条件として、(1)認定申請人の製品は「中国の知的財産とブランド」を所有していること、(2)申請人は、かかる中国知財を合法的に有する中国企業・団体であること、(3) 申請人によるかかる知的財産の使用、取扱、二次的開発は、外国企業とは完全に切り離されていること、(4)申請人が対象製品の商標を所有しており、その商標の最初の登録場所が中国であり、外国ブランドとは切り離されていること、が掲げられていました。ここまで露骨な条件はさすがに諸外国の強い反発を受け、さすがの中国政府も翌2010年4月に改正案を提案せざるを得なくなりました。たとえば、改正案では商標要件を削除していますが、中国の知的財産・ブランドを保有していることという要件は維持されたままです。

今回報道された規則がこれを指しているのか、実ははっきりとしていません。ほとんどの報道では具体的な規則名が明記されていません。いずれにせよ、中国としては独自技術・知財・ブランドを築くためのあらゆる方策を今後も次々と打ち出し、これに対し米国を筆頭とする貿易パートナーの圧力(ただし、自国経済の弱さもあり強いなかなか強いプレッシャーになれない)との綱引きが続いてゆくことでしょう。 (以下省略)
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(営業推進部 飯野)

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