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2019.06.20
【Cases & Trends】 インド特許実施報告規則131条/Form-27改正案公表される — 簡素化進む一方で、変わらぬ多くの報告負担、一部改悪も(?)
*インド商工省 産業・国内取引促進局(Department for Promotion of Industry and Internal Trade: DPIIT)。インド特許庁を所管
実施報告義務に関する特許規則131条/Form-27改正へと到るまでの経緯については、本コーナーでも2015年の公益訴訟(PIL)提起時からとりあげてきました。最終的に、デリー高等法院は、「実施報告は法に基づく特許権者/ライセンシーの義務であり、その順守が要求される」ことを確認しつつも、「報告用書式Form-27の複雑さ、曖昧さゆえに順守が困難になっている」面があることを認め、適切な書式に改訂すべきことを命じました。インド特許庁がこれを受け、規則改正スケジュールを裁判所に提出したことにより、訴訟は終結したのです。(Shamnad Basheer v. Union of India & Others, Delhi High Court, W.P.(C)5590/2015, 4/23/2018 closed)
しかし改正作業は一向に進まず、業を煮やした公益訴訟原告が緊急申立てをするに到った経緯は今年初めの本コーナーで紹介した通りです(『インド、特許実施報告義務をめぐる訴訟再燃か — Form-27改正作業放置を非難し、公益訴訟原告が緊急申立て』 Cases & Trends 2/22/2019)。
ざっと経緯を振り返ったところで、公表された注目のForm-27改訂案を見たいと思います。
[Form-27 改定案の概要]
特許1件ごとの記載はこれまでと同じ。報告対象年を記載した後、実施しているか(Worked)、実施していないか(Not worked)にチェックを入れた後、実施、不実施それぞれについて詳細記載することになります。
まずは改訂案の主要部を和文にしてみました。
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インドにおける商業規模での特許発明の実施に関する報告書
1. 名称、住所、国籍、特許番号を記載のこと
2. 本報告書の対象となる暦年を記載のこと
3. 実施か、不実施か(それぞれにチェックすること)
4. 実施している場合、以下について詳細を記すこと
a) 特許の対象が物である場合、その物により本報告を提出する特許権者またはライセンシーにインドにおいて生じたおおよその額であって、
a-1) インドでの製造による場合の額 (インドルピー)
a-2) インドへの輸入による場合の額 (インドルピー)
b) 特許の対象が方法である場合、その方法から直接得られた物により本報告を提出する特許権者またはライセンシーにインドにおいて生じたおおよその額であって、
b-1) インドでの製造による場合の額 (インドルピー)
b-2) インドへの輸入による場合の額 (インドルピー)
注)特定の特許発明より生ずる額が、関連する複数の特許から生ずる合計額と切り離して(個々に)特定することが不可能であり、かつ関連するすべての特許が同一の特許権者に認められている場合、かかるすべての特許の詳細(特許番号を含む)を以下の(c)に記すものとする(shall be provided)。すべての特許から生ずる合計額については上記(a)または(b)に記載のこと
5. 不実施の場合、不実施の理由(正当化理由)について500字以内で記すこと
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以上が改訂案の主要部ですが、現行規則と比べると確かに記載事項がいろいろ減っている一方、これまでになかった厄介な要件も加わっているようです。
改訂ポイント
1) 不実施の場合
現行フォームでは、不実施の理由および実施に向けた工程について記す必要がありましたが、改訂案では実施に向けた工程は不要。不実施の正当化理由のみ500字以内で記載することになりました。
2) 実施の場合
・ 現行フォームでは、インドで製造または輸入された特許対象物の数量(quantum)と額(value)について、可能な限り詳細を記すこと(Give whatever details available)が要求されましたが、改訂案では、数量の記載は不要。「おおよその額(approximate value)」のみの記載が求められます。また、特許対象の物と方法に分けて記載する方式になりました。
・ 1件の特許では実施による額(value)を特定することができない場合、関連する特許すべての総額を提示することとされました。*下記「複数特許がカバーする製品の扱い」参照
3) ライセンシーについての記載が不要になりました。
4) 「合理的な価格により…公衆の需要に応じているか否か」についての記載が不要になりました。
複数特許がカバーする製品の扱い
この要件については、「特許ポートフォリオで製品をカバーするテクノロジーカンパニーの便宜を図るもの。1件のみの額が特定できない場合は、複数特許の合計額を記載することができる」という前向きな表現で説明する複数のインド弁護士がいますが、実務上かなり厄介だと思います。
改訂案では複数特許の記載について、「…すべて記載するものとする(shall be provided)」という義務規定になっています。文字通り解釈すれば、今後は「複数特許でカバーされているので1件の特許による額を特定することは不可能です」という言い逃れができないことになるのではないでしょうか。実際上、関連特許すべてを明記することは難しいでしょうし、可能だとしても戦略上避けたいところだと思います。
一方、これでも情報開示は不十分、と主張するのは、公益訴訟原告が運営するインド知財Blog”SpicyIP”の論者です。どのような特許が使われているかを競合メーカーが調査しなければならないコストを考えれば、1件だけの額が特定不可能であるか否かにかかわらず、すべてのケースについて全関連特許開示を要求すべき、と主張します。(“Indian Government Proposes to Dilute the Disclosure Requirement for Patent Working” Pankhuri Agarwal, SpicyIP 6/14/2019)
改正案に対するコメント提出期限は2019年6月30日。引き続き動向をウォッチし、続報したいと思います。
(営業推進部 飯野)