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2019.10.18
張 華威
概要:
中国では2016年4月に専利審査指南が一部改正された後、2017年ごろからまた新たな改正が検討されてきた。改正案は専門委員会により複数回にわたり審議された後、2019年4月初旬にパブリックコメントの募集が行われた。そして2019年9月13日、中国知財局は「専利審査指南の改正に関する公告」(第328号)を発表し(「本改正」という)、2019年11月1日より施行される。以下においては、筆者が特に実務に影響が大きいと判断する改正点を抜粋して解説する。
主な改正の内容の解説:
1.再分割要件の明確化(第一部分第一章5.1.1)
中国では、1.親出願が認可となった場合は登録料納付期間(登録査定から2ヵ月)が経過した後は分割できず、2.親出願が拒絶となった場合は拒絶査定が確定した場合は分割できないが、それ以外のペンディング期間であれば、補正可能期間などの特定なタイミングでなくても分割出願が可能である。この点に関していえば、日本より柔軟に分割できる側面がある。
その一方で、中国では再分割の要件が日本より厳しい。すなわち、子出願をさらに分割するときは、中国では分割元の出願に単一性違反を指摘された場合を除き、それが何代目であったとしても時期的要件は最上位の親出願の分割時期を基準とする。例えば、親出願の登録査定から3か月後(すなわち登録料納付期間経過後)に、ペンディング中の子出願をさらに分割することは、子出願に単一性が指摘されている場合を除き許されない。そのため、日本のように分割出願を繰り返す出願戦略は中国では難易度が高い。
改正前の審査指南では、上記例外について規定されていたが、再分割の時期的要件が明確でなく、例えば子出願について単一性違反が指摘された指令書の応答期間内でなければならないと理解されるケースが散見された。そこで本改正において、再分割の時期的要件は「単一性瑕疵を有する当該分割出願」(すなわち分割元の出願)を基準として審査することを明確に規定した。すなわち、子出願に単一性違反が指摘されたときは、出願人はとりあえずクレームを削除する補正だけを行って応答し、後日必要なときに分割することも考えられる。
2.進歩性の判断基準(第二部分第四章3.2.1.1)
中国において進歩性の判断は、課題解決アプローチを基準としている。具体的には、1.まず最も類似する従来技術を確定し、2.本出願との区別的特徴及びその発明が実際に解決する課題を確定し、3.最も類似する従来技術と発明の実際に解決する課題に基づいて、本願の発明が当業者にとって自明である否かを判断する。
しかしながら、従来は審査官がこれを機械的に捉えてしまうことが少なからずあった。そこで、本改正においては、「実際に解決する技術的課題」はその技術的特徴が本願発明において奏することができる効果から確定すべきであり、且つ技術的課題同士の相互作用の関係を考慮に入れるべきであることが明確に規定された。
進歩性を判断する際、審査官がしっかりとした調査をせずに 重要な発明のポイントとなる技術的特徴を無造作に技術常識と認定してしまうことがあった。このような認定に対して、出願人が技術常識でないことを立証することは通常困難であり、優れた発明が技術常識認定の濫用により拒絶される問題が発生していた。
改正前の審査指南においては、出願人が審査官の引用した公知常識について異議を申し立てた場合には、「理由を説明しまたは証拠を提出して証明しなければならない」としており、実務上も審査官が証拠を提供しない場合が多かったが、本改正により「証拠を提出して証明し、または理由を説明しなければならない」と順序を変えることにより、証拠を提出することを優先させる方向性を示した。
また、本改正においては、「審査官が審査意見通知書において請求項のうち技術的課題の解決に貢献する技術的特徴を公知常識として認定するときは通常証拠を提供して証明しなければならない」とし、発明のポイントとなる重要な技術的特徴についての技術常識の認定は慎重に行うべきであることを示唆した。
4.面接要件の緩和(第二部分第八章4.13)
改正前の審査指南においても審査官面接については規定が設けられていたものの、実務上は審査官が直接の面接に応じてくれないことが多く、たいていの場合は電話討論を行っていた。また、電話討論の場合も、記載要件などの形式的な内容しか討論できないことが多く、進歩性などの実体的な内容に関しては議論してもらえずに直接意見書を提出して対応するように要求されることが多かった。
これには、現在中国の審査官は業務が忙しく、また面接を行うと議事録の作成をしなければならないため、審査官の業務負荷の増大が主な原因だと考えられていた。
そこで本改正では、面接の制度がきちんと機能するように、議事録の作成は必要なときのみに限定することより審査官の負担を軽減させるとともに、「審査官は、問題の明確化、意見の統一、理解の促進に有利と認められる場合は、原則面接を受け入れなければならない」と規定した。
ただし、改正後の審査指南においても「電話や書面により既に互いに十分な意見を述べており、関連する事実の認定が明確である場合などは、面接を拒否することができる。」と面接を拒絶する余地を残しており、本改正により面接がどれほど普及するかどうかは今後の動向が注目される。
5.優先審査の明確化と遅延審査の新設(第五部分第七章8.2)
優先審査については、別途「専利優先審査管理弁法」という法令により詳細に規定されているが、本改正においては主に特許・実用新案の併願における特許出願には適用されないことが規定された。特許・実用新案の併願では、先に実用新案権が登録になり権利行使が可能になるため、特許については優先させる必要がなく、審査のリソースを他の出願に回すべきであることが理由と考えられる。
また、中国では審査期間が短縮されている中、出願人は分割の機会を確保するために遅く審査することを希望する場合もある。そのために、わざと形式的な拒絶理由を残したり、応答期間の延長・回復をしたりすることがあった。意匠については、日本では秘密意匠制度があり、出願日を確保した上で公開させない制度があるが、中国にはそのような制度がなく、特に意匠は登録になると同時に公開になってしまうデメリットがある。
そこで、本改正においては特許と意匠については遅延審査を請求することができることとした。具体的には、特許については実体審査の請求と同時に遅延審査を請求することが可能であり、意匠については出願と同時に遅延審査を請求することが可能である。遅延期間は請求の日から1年、2年又は3年を指定することができ、遅延期間満了後、出願は審査待ちの状態となり、順次審査が開始される。なお、遅延審査をした後に遅延期間を延長または短縮することができるか否かは本改正においては明確にされておらず、今後の実務的な運用が注目される。