IP NEWS知財ニュース

  • 知財情報
  • アーカイブ

2020.01.22

【米国研修レポート2019】 記憶媒体クレームの特徴・有用性について

弊社は毎年、若手社員数名をワシントンDCに一週間ほど派遣する研修を行っています。派遣された社員はワシントンDC或いはその近郊の米国法律事務所を訪れて、様々なテーマについて米国特許弁護士とディスカッションをします。

今年度の研修は2019年11月上旬に行われました。様々なテーマについてディスカッションを行いましたが、本記事では特に「記憶媒体クレーム」についてご紹介いたします。

記憶媒体クレームの有用性
米国ではプログラムクレームの権利化が認められていません。そのため、基礎出願のクレームセットにプログラムクレームが含まれる場合には、プログラムクレームを削除するか、またはプログラムクレームを「プログラムを格納した記憶媒体」のクレームに書き直したうえで米国出願をするのが一般的です。

日本ではプログラムクレームの権利化が認められています。2000年に審査基準の改正が行われ、発明のカテゴリをプログラムとすることが運用上認められるようになりました。また、2002年には「物」がプログラムを含むことを特許法上に明記する法改正が行われました。このような変更が行われたのは、当時、ネットワークを介してプログラムを流通させる行為が盛んに行われるようになってきたことが背景にあります。それから約20年が経ち、ネットワークを介したプログラムの流通は主流になり、記憶媒体(例えばCD、DVDなど)を介してプログラムを流通させる行為はあまり行われなくなってきています。

このような事情をご存知の日本の特許実務担当者の中には、記憶媒体クレームは有用なクレームではないとのイメージをお持ちの方が少なからずいらっしゃるように思います。

しかしながら、記憶媒体クレームを有用なクレームであると考える米国特許弁護士は多く、積極的に活用すべきという声が多くありました。その理由のひとつが、米国ではネットワークを介してプログラムを提供する行為を「間接侵害」(米国特許法第271条(b)(c))に問える可能性があることにあるように思います。

米国は、間接侵害の成立に直接侵害の成立が必要であるとする、いわゆる従属説を採用しています。米国特許法第271条(a)に直接侵害に関する規定がありますが、この規定には日本の特許法第68条における「業として」や中国の専利法第11条における「生産経営を目的として」というような要件がありません。したがって米国では、ネットワークからダウンロードしたプログラムを格納した記憶媒体(メモリなど)を米国内で個人的に使用する行為であっても直接侵害が成立し得ます。そしてこの直接侵害の成立を前提として、ネットワークを介してプログラムを提供する者を間接侵害に問えるようになっています。特に米国特許法第271条(b)は、積極的誘起(actively induce)が「米国内」で行われることを要求していないので、米国外のサーバ等から米国内の記憶媒体にプログラムをインストールさせる行為が間接侵害になり得ます。

記憶媒体クレームの特徴
他のクレームカテゴリ(方法クレーム、装置クレーム、システムクレーム)と比べて、記憶媒体クレームがどのような特徴を有しているか米国特許弁護士に意見を聞くことができました。

或る米国特許弁護士は、「記憶媒体クレームは方法クレームのFunctionalityと装置クレームのTangibilityとを併せ持ったクレームである。」と述べていました。そして、「有体の記憶媒体が対象であるが故、販売する行為、販売を申し出る行為、および輸入する行為についても侵害が成立し得る。」ことを良い点として挙げていました。この点は方法クレームとは異なります。関係する判例として、多くの米国特許弁護士がFinjan, Inc. v. Secure Computing Corp.を挙げていました。この判例では、「方法クレームについてはクレームの各ステップが実際に実行されなければ侵害が成立し得ないのに対して、記憶媒体クレームについてはクレームの各ステップが実際に実行されなくても侵害が成立し得る」との判断もなされました。

また、装置クレームおよびシステムクレームとの比較において、記憶媒体クレームが特定のハードウェア構造に限定されにくい点を良い点として挙げる米国特許弁護士もいました。記憶媒体クレームは、あらゆる種類の記憶装置をカバーするものとして広く解釈される可能性があります。装置クレームおよびシステムクレームとは異なり、米国特許法第112条(f)のクレーム解釈が適用されないことを記憶媒体クレームの特徴として挙げる米国特許弁護士もいました。

今回の研修では、たくさんの米国特許弁護士と実際に会って直接話すことができました。普段から書面でコミュニケーションをしている米国特許弁護士達でしたが、対面のディスカッションや食事を共にすることによってそれぞれの性格や経験などを知ることができました。今回の体験は、今後のコミュニケーションに役立つと確信しています。

訪問事務所(アルファベット順)
◆Banner Witcoff
1100 13TH STREET, N.W., 12TH FLOOR, WASHINGTON, D.C. 20005
TEL: 1-202-824-3000

◆Drinker Biddle
1500 K STREET, N.W., SUITE 1100, WASHINGTON, D.C. 20005-1209
TEL: 1-202-842-8800

◆Greenblum & Bernstein PLC
1950 ROLAND CLARKE PLACE, RESTON, VA 20191
TEL: 1-703-716-1191

◆Kenealy Vaidya LLP
3000 K STREET,N.W., SUITE 310, WASHINGTON D.C.20007-5019
TEL: 1-202-748-5902

◆Oblon, McClelland, Maier & Neustadt, L.L.P
1940 DUKE STREET, ALEXANDRIA, VA 22314
TEL: 1-703-413-3000

◆Oliff PLC
277 SOUTH WASHINGTON STREET, SUITE 500, ALEXANDRIA, VIRGINIA 22314
TEL: 1-703-836-6400

◆Paratus Law Group, PLLC
1765 GREENSBORO STATION PLACE, SUITE 320, TYSONS CORNER, VA 22102
Tel: 1-571-313-7556

◆Studebaker & Brackett PC
8255 GREENSBORO DRIVE, SUITE 300, TYSONS, VA 22102
TEL: 1-703-390-9051

◆Sughrue Mion PLLC
2000 PENNSYLVANIA AVENUE, SUITE 900, WASHINGTON, DC 20006
TEL: 1-202-293-7060

記事担当:特許第1部 渡邉

関連記事

お役立ち資料
メールマガジン