- 知財情報
- アーカイブ
2020.01.22
張 華威
概要:
2019年12月31日、中国知財局は専利審査指南の新たな改正を発表した。AI、インターネット+、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの新しい分野においては、クレームに技術的特徴だけでなくアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴も含まれることが多く、通常の分野とは異なる特殊性がある。本改正の目的は、発明の技術的貢献を正確に把握できるようにすることにより審査の品質の向上及び効率化を図ることであり、具体的には審査指南第二部分第九章において第六節が追加された。
原文URL:
http://www.sipo.gov.cn/zfgg/1144989.htm
施行日:
2020年2月1日
改正の概要:
1.審査の基本原則
技術的特徴とアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴とを切り離して考えるのではなく、クレームに記載された全部の内容を一体として理解した上で、技術的手段、技術的課題及び技術的効果について分析しなければならない。
2.発明該当性の審査(専利法第2条2項関係)
アルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴を含むクレームに解決しようとする技術的課題に対する自然法則を利用した技術的手段が記載されており、且つ自然法則に適合した技術的効果を発揮できれば発明該当性の要求を満たす。
3.不特許事由の審査(専利法第25条1項2号関係)
クレームにアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴だけでなく技術的特徴も含まれており、且つ全体的にみて知力活動の規則及び方法に該当しなければ、不特許事由により登録の可能性を排除すべきではない。
4.新規性、進歩性の審査(専利法第22条2項、3項関係)
新規性の審査においては、技術的特徴だけでなく、アルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴についても考慮すべきである。
進歩性の審査においては、技術的特徴と機能的に互いにサポートし且つ相互作用関係を有するアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴の貢献を考慮すべきである。
5. 記載要件の審査(専利法第26条3項、4項関係)
明細書には、技術的特徴と機能的に互いにサポートし且つ相互作用関係を有するアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴がどのように共同で作用し、有利な効果をもたらすかを記載しなければならない。
特許請求の範囲には技術的特徴及び当該技術的特徴と機能的に互いにサポートし且つ相互作用関係を有するアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴を記載しなければならない。
コメント:
中国ではAI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーン、FinTechなどのインターネットを利用した新しい技術分野において飛躍的に進歩し、こうした優れた技術を有する企業を保護する需要が顕在化するようになった。
2017年4月1日に施行された審査指南改正では、ビジネスモデル関連特許が「知力活動の規則及び方法」の不特許事由に該当することを理由に実体的な審査をされずに出願が「門前払い」されてしまうことを防止するため、「ビジネスモデルに関するクレームにビジネス規則及び方法の内容が含まれ、且つ技術的特徴も含まれている場合は、専利法第25条により専利権を取得する可能性を排除してはならない」と規定されたが、新規性・進歩性の判断基準が明確でなく、審査実務上ではクレームの中の技術的特徴とビジネス規則・方法の特徴を切り離して技術的特徴のみを考慮することが一般的であった。その結果、新規性・進歩性の判断が極端に厳しくなる傾向があり、依然としてビジネスモデル関連特許の登録が難しい状況となっていた。
また、前述したAIなどの新しい分野においては、ビジネス規則・方法の特徴だけでなく、アルゴリズムの特徴も含まれることが多く、同様の問題が発生していた。
そこで、今般の改正では、「技術的特徴とアルゴリズムやビジネス規則・方法の特徴を切り離して考えるのではなく、クレームに記載された全部の内容を一体として理解する」という審査の基本原則を明らかにしたうえで、不特許事由の審査(第25条)だけでなく、発明該当性(第2条)、新規性・進歩性(第22条)、記載要件(第26条)などの具体的な審査基準を規定した。
注意すべき点は、改正後の審査指南においても、純粋なビジネスモデルやアルゴリズムは依然として特許を受けることはできない。順調に登録を受けるためには、明細書を作成する段階において、特許を受けたい内容を自然法則と結びつけ、技術的手段、技術的課題、技術的効果の三要素を意識して記載することが極めて重要である。保護を受けようとする発明とこれらの三要素との対応関係が明確であれば、発明該当性要件及び不特許事由による拒絶のリスクを大幅に低減させることができる。
また、新規性・進歩性の判断において、アルゴリズムや商業規則・方法の特徴が考慮されるためには、自然法則を利用した技術的特徴との緊密な関連性が求められることにも注意されたい。明細書に技術的特徴とアルゴリズムや商業規則・方法の特徴がどのような関連性があり、どのような原理でそれにより有利な効果をもたらすかを具体的に記載することにより、認可となる確率を大幅に高めることができる。なお、有利な効果については、「ユーザ体験の向上」などであってもよいとされている。
保護を受けたい内容が同一であっても、明細書とクレームの書き方次第で、特許を受けられる確率が大きく変わってくる。世界各国でビジネスモデルやソフトウェア関連の特許の登録要件は異なっており、外国の実務に詳しい事務所に出願を依頼することが今後一層重要になっていくと思われる。