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2020.05.01

中国:2019年度中国知財訴訟統計報告書を発表~2019年全国知財訴訟事件新受件数48.2万件,対前年比44%増~

日本技術貿易株式会社 顧問
張 華威

 2020年4月21日,中国最高人民法院は「中国法院知的財産司法保護状況(2019年)」(以下,「白書」という)を発表した。「白書」によれば,2019年の全国人民法院の各種知的財産関連事件(第一審,第二審,再審を含む)の新受件数は481,793件(対前年比44.16%増)であり,既済件数(前年からの繰越事件を含む,以下同じ)は475,853件(対前年比48.87%増)であり,連続で40%以上の増加率を記録した。
 上記各種知的財産関連事件のうち,最高人民法院の民事事件の受理件数と既済件数はそれぞれ2,504件と1,976件であり,2018年に比べそれぞれ174.26%増と260.07%増という結果となった。この大幅な増加は,主に 2019年から最高人民法院の知的財産法廷が技術系事件の控訴審を集中的に審理することになったことが原因だと思われる(最高人民法院の控訴審集中管轄の解説記事:https://www.ngb.co.jp/ip_articles/detail/1617.html)。
 地方各級人民法院の民事第一審事件の新受件数と既済件数はそれぞれ399,031件(対前年比40.79%増)と394,521件(対前年比44.02%増)を記録した。上記新受件数の内訳は以下のとおりである。

* 専利(特許権,実用新案権,意匠権を含む)は22,272件(対前年比2.64%増)
* 商標は65,209件(対前年比25.41%増)
* 著作権は293,066件(対前年比49.98%増)
* 技術契約は3,135件(対前年比16.98%増)
* 競争関連民事事件は4,128件(対前年比1.25%減)
* その他知的財産民事紛争事件11,221件(対前年比49.95%増)

 上記の統計データをみると,著作権の第1審民事事件の新受件数の増加が最も顕著であることがわかる。一方で,専利民事訴訟第1審の受理件数の増加は商標や著作権に比べて落ち着いている傾向があるが,専利法第4次改正案において,裁量に基づく賠償額の引き上げ(10~500万人民元),懲罰的損害賠償制度の新設(1~5倍),立証の容易化(書類提出命令の明文化),行政官庁に対する専利権侵害における強制執行力の付与(当事者に対する尋問,資料の複製・閲覧,現場検査などの強制的な調査権の付与)などが検討されており,権利者に有利な法改正となる見込みであり,今後も増加する可能性があると考えられる。なお,第4次改正案の全人代常務委員会において更なる審議を行った後に議決されることとなるが,新型コロナウイルスの影響により現在会議の開催が滞っている。
 上記統計データを示すグラフは以下のとおりである。

[第一審民事新受事件の種別内訳]
 白書からわかるように,中国の知財訴訟の件数は近頃毎年40%の割合で増えており,中国で経済活動を進めていく中で,訴訟リスクが一段と高くなっていることは明らかである。権利者側に有利な環境づくりが進められていく中,ビジネスを守るためには品質と数量の双方において適切な権利化を行うことが最重要であることは間違いない。同時に,新製品を展開する前の侵害調査や,防衛的な公開や証拠の保存を行うことも今まで以上に重要になると思われる。
 当社では,中国の公証役場を利用した防衛公開の証拠保存サービスだけでなく,2020年3月から中国で最大手のタイムスタンプサービス会社と業務提携を行い,日本企業向けにトラステッド・タイムスタンプ(中国名「可信时间戳®」)のサービスの提供を開始した。中国では, 2019年だけで実に6,500件以上もの判例に「可信时间戳®」が出てきており(中国判例データベース「IPHouse」による独自調査),タイムスタンプはかなり積極的に利用されている。サービスの詳細は以下を参照されたい。

https://www.ngb.co.jp/assets/oldposts/pdf5e784fbadb3c0.pdf
http://jp.tsa.cn/dist/page/index

以上

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