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2021.03.23
EPOにおいては、技術的特徴と非技術的特徴が混在するクレームの進歩性判断基準としてCOMVIKアプローチが採用されてきました。COMVIKアプローチの下では、原則として、技術的課題の解決に貢献する特徴のみが進歩性有無の判断において考慮されます。また単独では非技術的とされる特徴についても、技術的特徴との相互作用により技術的課題の解決に貢献する場合には、進歩性判断の際に考慮することが可能とされています。コンピュータ関連発明の多くは、技術的特徴と非技術的特徴の両方を有するため、進歩性の判断時にCOMVIKアプローチが採られてきました。
本件は、建物等の設計のために歩行者の動きをシミュレートする方法に係る出願に関するものであり、審査・審判段階では、
(1)シミュレーションは技術的効果を生むことにより技術的課題を解決し、進歩性の判断の際に考慮されうるか、
(2)シミュレーションがもたらす効果は現実(物理的)世界との繋がりを要するか、
等が争点となっていました。出願人は、回路シミュレーションについて特許性が認められた過去の審決(cf. 審決T1227/05)に依拠し、本件の特許性について主張していましたが、本件審判部はこの審決における判断を疑問視しました(cf. 中間決定T489/14)。このような審判部間での見解の相違をきっかけに、法の適用の一貫性を確保する目的で、拡大審判部へと本件の特許性に関わる質問が付託されました。
拡大審判部に付託された質問
1. 進歩性の評価において、技術的システムまたは方法のコンピュータ・シミュレーションがクレームされている場合に、当該コンピュータ・シミュレーションがコンピュータでのシミュレーションの実行を超える技術的効果を生むことで技術的課題を解決することはあるか?
2. [質問2A] 質問1に対する回答がYesの場合、クレームされたコンピュータ・シミュレーションが技術的課題を解決すると判断する基準は何か?[質問2B] 特に、シミュレーションが少なくとも部分的に、シミュレートされるシステムまたは方法における技術的原理に基づいていることが十分条件であるか?
3. コンピュータ・シミュレーションが、設計プロセスのうち、設計検証のための一部としてクレームされている場合における質問1,2に対する回答はどうなるか?
付託された質問に対する決定
1. クレームされた技術的システムまたは方法のコンピュータ・シミュレーションは、進歩性の評価において、当該コンピュータ・シミュレーションがコンピュータでのシミュレーションの実行を超える技術的効果を生むことで、技術的課題を解決しうる。
2. シミュレーションが全体的または部分的に、シミュレートされるシステムまたは方法における技術的原理に基づいていることは、クレームされたコンピュータ・シミュレーションが技術的課題を解決するかどうかの判断における十分条件ではない。
3. コンピュータ・シミュレーションが、設計プロセスのうち、設計検証のための一部としてクレームされている場合においても、質問1,2に対する回答は上記と同様である。
審決においてポイントとなった事項
(1) 拡大審判部は、コンピュータ・シミュレーションについても、シミュレーションが「コンピュータ上でのシミュレーションの実行を超える技術的効果」を生むことにより技術的課題を解決しうる、つまり進歩性の判断の際に考慮されうる、との見解を示しました。ここで、「コンピュータ上でのシミュレーションの実行を超える技術的効果」とは、シミュレーションを実行するコンピュータ内部で生じる通常の電気的相互作用を超える技術的効果のことをいいます。
(2) さらに「技術的効果」については、必ずしも現実(物理的)世界との直接の繋がりを有するものでなくとも、例えばコンピュータやネットワーク内部で生じる効果についても、技術的効果と認められうるとの見解が示されました。
このような考慮に基づき、コンピュータ・シミュレーションに係る出願についても、他のコンピュータ関連発明と同様にCOMVIKアプローチを適用して進歩性の評価を行うべきであるという見解が示されました。
(参考)
・欧州特許庁の発表(2021年3月10日付)
・拡大審判部審決(G1/19)全文(2021年3月10日付)
・技術審判部3.5.07による中間決定(審決T489/14)全文(2019年2月22日)
記事担当:特許第1部 毛塚もも