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2022.06.23
NGB株式会社 顧問 張華威
中国国家知的財産権局(以下、「CNIPA」という)は「2021年国家知識産権局年次報告書」を公表し、2021年度(1月~12月)における専利、商標、地理的表示、集積回路配置設計に関する出願統計データを開示した。統計データの内容及び筆者の見解を以下に示す。
1. 特許出願件数は158.6万件(対前年比5.9%増)であった。2021年は、6月に専利法第4次改正が施行されるとともに、9月に中国政府が「知的財産強国建設要綱(2021-2035)」(https://www.ngb.co.jp/resource/news/3740/を参照)を打ち出し、出願件数は引き続き増加した。そのうち、中国出願人による特許出願は142.8万件(対前年比6.2%増)であり、全体の90%を占め、前年比べて割合が若干増加した。なお、日本出願人(中国現地子会社を含まず。以下同じ。)による特許出願件数は47,010件であり、対前年比12%減であった。
2. 実用新案出願件数は285.2万件(対前年比2.5%減)であり、8年ぶりの減少となった。出願件数が減少した主な原因として、以下の3点が考えられる。
① 基本的に補助金・奨励金がないこと
② 非正常出願の取締が強化されていること
③ 特許と実用新案の併願の場合において特許出願の早期審査が受けられず且つ4年間処理しないという知財局の方針により特許出願の審査が遅れるという副作用が生じたこと
外国出願人による実用新案出願は6,901件(対前年比11%減)であり、その中で日本出願人による実用新案出願は1,860件(対前年比46%減)であった。日本の出願人による実用新案出願件数が大幅に減少したことにより外国出願人全体の出願件数の割合が減少したが、日本以外の国の出願件数はむしろ2020年の4,335件から5,041件まで増えていた(対前年比16.3%増)。なお、中国での実用新案権の活用については当社の公式YouTubeチャンネルに詳しく解説する解説動画(URL: https://www.youtube.com/watch?v=KFH_x5hZSUM)があるので興味があれば参照されたい。
3. 意匠権の出願件数は80.6万件(対前年比4.6%増)であり、改めて史上最多記録を更新した。専利法第4次改正では部分意匠制度が創設され、意匠の国内優先権が認められ且つ特許・実用新案を優先権の基礎とすることもできることが見込まれている。存続期間も延長されたことで意匠権を出願するメリットが大きくなった。また、2022年5月5日のハーグ協定の発効し、意匠出願に対する注目度は大きくなると考えられる。
4. PCT国際特許出願の受理件数は7.3万件(対前年比1.5%増)であり、前年より微増した。そのうち、中国出願人(日本企業の中国現地法人を含む)の出願件数は6.8万件(対前年比2.1%増)であり、中国企業による海外進出の動きがある。
5. 専利の復審(拒絶査定不服審判)の請求件数は7.6万件であり(対前年比39.2%増)、既済件数は5.4万件であった(対前年比12.4%増)。復審の審決のうち、47.2%が拒絶査定を取消し、52.8%が拒絶査定を維持(復審請求の取下げ及びみなし取下げを含む)した。
6. 専利無効審判の請求件数は7,628件(対前年比23.5%増)であり、大幅な増加を見せた。2021年の専利侵害訴訟件数が大幅に増えたことによる影響だと推測される(詳しくは関連記事を参照:https://www.ngb.co.jp/resource/news/3955/)。一方、既済件数は7,045件(対前年比1.1%減)であった。特許無効審判の審決のうち、全部無効が24.7%、一部無効が15%、全部有効は約60.4%であった。実用新案無効審判の結果のうち、全部無効が42%、一部無効が17.8%、全部有効が40.2%であった。意匠無効審判のうち、全部無効が49.9%、一部無効が0.9%、全部有効が49.1%であった。日本での特許無効率(一部無効を含む)が約23%(2020年特許庁統計)であるのに対し、中国では39.7%と比較的高い水準となっており、訂正のできる限度の相違が主な理由と考えられるが、中国で権利行使を行う前は権利の有効性の確認が重要となる。
7. 商標出願受理件数は945.1万件(対前年比1.1%増)であり、史上最多記録をさらに更新した。そのうち、中国出願人による出願は919.3万件(対前年比0.8%増)であるのに対し、外国出願人による出願は25.8万件(対前年比11.6%増)であり、外国出願人の増加率の方が高いという結果となった。商標登録件数は773.9万件(対前年比34.3%増)と大幅に増加した。平均審査期間は4か月に安定している。審査の登録率(マドプロ国際出願のうち中国を指定するものを除く)は仮審査認定が56.9%、一部拒絶率が15.2%、全部拒絶が27.8%であった。
8. 商標異議申立の請求件数は17.6万件(対前年比31.1%増)であり、既済件数は16.4万件(対前年比10.1%増)であった。異議申立の審決のうち、全部認容審決が38.6%、一部認容審決が10.4%、全部棄却審決が51.0%であった。
9. 商標拒絶復審(拒絶査定不服審判)の請求件数は38.3万件(対前年比28.4%増)であり、既済件数は30.8万件(対前年比28.1%増)であった。
10. 商標無効審判の請求件数は6.8万件(対前年比29.1%増)であり、既済件数は5.8万件(対前年比35.1%増)であった。商標侵害訴訟件数の顕著な増加が主な原因であると推測される(詳しくは関連記事を参照:https://www.ngb.co.jp/resource/news/3955/)
11. マドリッドプロトコルに基づく国際商標出願の出願件数は5,928件(対前年比21.5%減)であり、中国を指定する国際商標出願は2.7万件(対前年比53.4%減)であり、直接出願に流れる傾向が顕著であった。
12. 地理的表示については、477件(対前年比33%減)の地理的表示商標が新しく登録され、地理的表示商標の累積件数は6,562件(対前年比7.8%増)であり、そのうち外国人による地理的表示商標は215件であった。
13. 集積回路配置設計の出願件数は2万件(対前年比41.6%増)であり、登録件数は1.3万件(対前年比11.6%増)であった。近年における半導体分野の迅速な成長を顕著に反映する結果となった。
以上