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2022.12.08

特許部 西村莉沙

【特許・意匠ニュース】 ブラジル産業財産庁が遺伝子組換え植物に関連する発明の新たな審査ガイドラインを発表

ブラジル産業財産庁は、2022年3月にテクニカルノート(INPI/CPAPD No.01/2022) を発行し、遺伝子組換え植物に関連する発明、特に「エリートイベント(Elite Event)」と定義される形質転換イベントに関連する発明に対して新たな審査指針を示しました。

まず、新たな審査指針における「エリートイベント」の定義は以下の通りです(各特徴に付された番号は原文ママ)。

エリートイベントとは、③遺伝子構築物を用いて②導入遺伝子を挿入する①植物の形質転換イベントであって、④この挿入が植物ゲノムの特定の位置において安定的に行われ、⑤他の形質転換イベントと比較して優れた技術的効果を植物に付与するものである。

また、生物に関連する発明についてブラジル産業財産法には以下のような規定があります(関連項のみ抜粋)。

第10条
次の事項は、発明又は実用新案とみなされない。
(IX) 自然の生物の全部又は一部、及び自然界で発見又は自然界から分離された自然の生物のゲノム又は生殖細胞質(染色体と遺伝子を含む胚細胞の原形質)を含む生物学的材料、及び自然の生物学的方法
第18条 (日本特許庁提供の仮訳より抜粋)
次のものは、特許を受けることができない。
(III) 生物の全体又は一部。ただし、第8条に規定した特許を受けるための3要件、すなわち、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性の要件を満たし、かつ、単なる発見ではない遺伝子組み換え微生物を除く。
補項 本法の規定の適用上、遺伝子組み換え微生物とは、植物又は動物の全体又は一部を除いた有機体であって、その遺伝子構成への直接の人的介入により、通常自然の状態では到達し得ない特性を示しているものをいう。 

上記規定に基づき、エリートイベントに由来する植物を含む遺伝子組換え植物自体は、自然の生物、またはより広く定義された生物の全体または一部とみなされ特許として保護されません。

しかしながら、エリートイベントに関連する出願には、主発明(遺伝子組換え植物)と主発明と関連する1つまたは複数の付属的な発明(DNA分子などの生物学的材料やイベントの検出方法、遺伝子組換え植物の作製方法など)が含まれることが多く、今回発表された新たな審査方針にて、上記エリートイベントの定義に含まれる①~⑤の特徴に基づいて先行技術との比較を行い、主発明の新規性・進歩性が認められた場合には、付属発明について、さらなる審査が行われ、特許保護の可能性があることが示されました。

なお、付属発明が特許されるためには、上記産業財産法第10条(IX)および第18条(III)の規定に該当しないことの他、付属発明自体の技術的特徴がクレームに規定され当該特徴が新規性を有すること、主発明との関係がクレームに記載され主発明の結果としてもたらされる付属発明の技術的特徴に進歩性が認められること、開示十分要件・サポート要件・明確性といった記載要件を満たすことなどが求められます。

付属発明をクレームする際の留意点(審査指針より)
・生物学的材料が植物から分離されたものであることが明示されているかどうか
・クレームされた材料を天然物と区別する技術的特徴がクレームの文言に含まれているかどうか
・生物学的材料を新規性・進歩性のあるものとする技術的特徴がクレームの文言に含まれているかどうか
・生物学的材料が遺伝子の組換えによって得られたものであるかどうか
・分子が配列番号によって特徴付けられているかどうか
・生物学的材料が単離されたエリートイベントを含む代表的な種子サンプルの寄託番号があるかどうか

(参考)
・ブラジル産業財産庁発行のテクニカルノート(INPI/CPAPD No.01/2022, 2022年3月: ポルトガル語)

・日本特許庁提供のブラジル産業財産法仮訳
 

・情報源:KASZNAR LEONARDOS事務所(リオデジャネイロ他)

・情報源:BALDER事務所(マドリード他)
 

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