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- 法律・法改正
2023.05.17
営業推進部 飯野
2023年6月1日の統一特許裁判所(UPC)協定発効まで2週間余りとなりました(本稿執筆時点)。まずは協定を批准した17ヵ国でこの新たな統一制度(単一効特許、統一特許裁判所)が動き出すことになるわけですが、先例のない新たな制度だけに、これから様々なことが起こるのだと思います。
今回は、現在サンライズ期間中の申請ラッシュになっているという「オプトアウト」について、制度開始後に起こり得るといわれていることを紹介します。
[オプトアウトしていてもUPCに提訴される?]
UPCにおける特許無効訴訟により、複数国で有効化していた特許がまとめて無効にされる(セントラルアタック)というリスク、しかもUPCではかなり迅速な対応を余儀なくされる(訴状の提出から1年~1年数カ月で第1審の判決が下さる)という事情ゆえに、欧州特許/出願をUPCの専属管轄から除外する「オプトアウト」申請をしている権利者は少なくありません。
「既にUPCに提訴されていない限り、移行期間(UPC協定発効日より7年。延長されれば最大14年)終了前に認可または出願された欧州特許の保有者または出願人は…、UPCの専属管轄から除外すること(オプトアウト)ができる」(UPC協定第83条(3))
ただ、このオプトアウトは、「これによりUPCへの提訴が当然に、自動的に排除される」というものではないようです。たとえば、UPC手続き規則19は以下のように規定します。
*規則19は侵害訴訟に関する規定ですが、無効訴訟において準用されます(規則48)。
- 規則19 予備的異議申立て(Preliminary objection)
1.申立書(訴状)送達から1か月以内に、被告は以下に関する予備的異議を申し立てることができる。
(a) 統一特許裁判所の管轄権・適格性。当該特許が規則5に基づくオプトアウトの対象で あるとする異議を含む。
(b) 原告が指定する裁判区(部)の適格性。
(c) 申立書の言語。
この予備的異議申立てとは、米国でいう管轄権欠如などを理由とする「訴え却下の申立て(motion to dismiss)」や「移送申立て(motion to transfer)」に相当するものだと思います。いずれにせよ、規則19(規則48)は、UPCに特許無効訴訟を提起されたらオプトアウトを理由に異議を申し立てることができるとしてますが、UPC訴訟は却下されるとか、訴えを取り下げなければならないとまでは書かれていません。
もっとも、規則16では次のように規定しています。
- 規則16 申立書(訴状)の方式要件に関する審査
1.UPC登録部は、可能な限り速やかに、対象特許が協定第83条(3)および規則5に基づくオプトアウトの対象であるかをチェックするものとする。オプトアウトされている場合、登録部はこれを可能な限り速やかに原告に伝え、原告は訴状を取り下げるか、修正することができる。
これにより、実際上はオプトアウトされている特許に対しセントラルアタックを仕掛けてくるケースはかなり少なくなると思われますが、欧州の弁護士からは「訴えを取り下げることなくオプトアウトの有効性を争ってくる原告もいるだろう」というコメントもあります。
[迅速手続きへの対応]
このように、オプトアウトしていてもUPCに訴えられるということは、少なくとも皆無ではないということを意識しておく必要はありそうです。とりわけ規則19.7によれば、訴状送達後1ヵ月以内に予備的異議を申し立てなかった場合、UPCの管轄権や原告が指定する裁判区(部)の適格性を受け入れたものとして扱われます。
その後は待ったなし、無効訴訟の場合訴状送達から2ヵ月以内には実体的な答弁書を提出しなければならないとされています(規則49)。思いもよらず届いた訴状に戸惑ううちに1ヵ月を経過すると、かなり厳しい事態になりそうです。
[知らぬ間にオプトアウトされていた? 知らぬ間にオプトアウトが撤回されていた?]
UPC手続き規則5Aには次のようなことが定められています。
- 規則5A 権限なきオプトアウト申請またはオプトアウト撤回申請に対する削除の申請
1.欧州特許または公開済み欧州特許出願の保有者は、規則5に基づくオプトアウト申請またはオプトアウト撤回申請の権利を失うことなく、… 自身の特許/出願についてなされた権限のないオプトアウト申請またはオプトアウト撤回申請に対する削除申請をすることができる。
規則5Aは、オプトアウトしていないのにされていた、オプトアウトしたのに撤回されていた、という事態が現在のシステム上発生しうることを示しています。確かに、UPCオフィシャルサイトの「よくある質問(FAQ)」にも、以下のような問答がありました。
- 「4.31
Q)私の特許に対し誰か他の人がオプトアウト申請をしていた場合、どうなりますか。
A)まずは、権利の共有者や代理人が申請していないか確認しましょう。申請する権限のない誰かが申請していた場合、UPC手続き規則5Aに基づく手続きにより、そのような権限なき行為を取り除くことができます。」
以上、いずれも、「このようなことも起こりうる」という指摘の根拠となる規則等について改めて見てみました。6月1日以降、実際にどのようなことが起こるのか。引き続き、ウォッチしていきたいと思います。
参考文献
・ Rules of Procedure of the Unified Patent Court (https://www.unified-patent-court.org/sites/default/files/upc_documents/rop_en_25_july_2022_final_consolidated_published_on_website.pdf)
・ Unified Patent Court - Frequently Asked Questions (https://www.unified-patent-court.org/en/faq/opt-out#faqs)
・ Nick Bassil (Kilburn & Strode LLP) “Unified Patent Court (UPC) opt-outs – practical points to note” March 21, 2023
・ Guy Brain (J A KEMP) “UPC: Need for Speed? ” Oct.25, 2022
・ Joeri Beetz (Keltie LLP) “So You Think You Can Opt Out” Oct. 7, 2022
・ Bristows “Challenging the UPC opt-out – how exactly will it work?” June 16, 2017