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2023.07.20

営業推進部 飯野

【Cases & Trends】欧州統一特許裁判所(UPC)最新動向 — 6/1の開始後に提起された侵害訴訟、無効訴訟など

2023年6月1日、ついに欧州統一特許裁判所協定(UPC協定)が発効しました。発効後3週間過ぎた辺りから、ドイツの法律事務所・弁護士によるUPC提訴状況報告を目にするようになりました。ただ、訴訟情報を提供するUPC Case Management Systemの”Case search”はまだ完全でなく、正確なサーチがなかなか難しいようで、報告される件数や情報量にバラツキが見られました。
このような状況のなか、6月26日開催の「第7回UPC管理委員会ミーティング」報告において、提訴件数などが公表されました(“Communication on the 7th UPC Administrative Committee meeting on 26 June 2023” *1)。 それによると、報告時点での件数は以下の通りです。

23件の訴訟等を受理。内訳は、
6件の保護措置申請(4件の仮処分、2件の証拠保全)
3件の無効訴訟
14件の侵害訴訟
さらに、236件の “protective letter”を受理。

最後の”protective letter”とは、近い将来UPCに差止めの仮処分申請が出されるリスクがあると考える者(潜在的被告)が、先取りして差止めへの反論や証拠を提出できるという制度とのことです(UPC手続き規則207)。 ドイツなどいくつかの国に存在する制度で、UPCでも採用されました。

さて、筆者もUPCの”Case search”を使ってUPC提訴案件について調べてみました*2)。 本稿執筆時点(2023.7.17)で無効訴訟は3件、侵害訴訟は17件出てきました。それぞれの訴訟の情報としては、おおよそ以下のようなものが開示されています。例として、Huawei社が提起した侵害訴訟情報を示します(この訴訟は「UPCへ提起された通信系SEP訴訟第1号」という指摘もされています)。

事件番号: ACT_459771/2023
原告: Huawei Technologies Co. Ltd
被告: Netgear Inc., Netgear International Limited, NETGEAR Deutschland GmbH
特許番号: EP3611989(METHOD AND APPARATUS FOR TRANSMITTING WIRELESS LOCAL AREA NETWORK INFORMATION)
正式受理日: 2023.7.3
裁判所: 第1審・地方部 *具体的地名は示されていません。
代理人: Tobias J. Hessel
手続き言語: ドイツ語

[UPCでの手続き言語]
それぞれの手続き言語についてチェックすると、17件の侵害訴訟のうちドイツ語11件、英語5件、イタリア語1件となっており、無効訴訟は3件すべて英語になっていることがわかりました。複数のドイツ弁護士のレポートによると、侵害訴訟の多くはドイツ地方部(ミュンヘン、デュッセルドルフ他)に提起されたということです。ドイツ語が多いのもそのためかと思われますが、今後は状況が少し変わりそうです。ここでUPCの手続き言語に関するルールを確認しておきます。

第1審裁判所における手続き言語(UPC協定第49条他)

地方部(local division), 地域部(regional division)
— 当該地方部の国の公用語(地域部の場合、共有する複数国が指定するいずれかの国の公用語)。各国はまた、EPOの公用語(英独仏)のひとつまたはそれ以上を手続き言語として指定することができる。

ドイツ、フランス、イタリアは、自国公用語の他に英語を手続き言語にできることを2023年6月1日に発表しました。そこで「おそらく、6/1直後に提訴した原告たちは、ドイツ地方部でも英語を手続き言語にできることが明らかになる前にドイツ語での提訴を準備していたのではないか。しかし今後は、国際訴訟という面で利便性の高い英語への選択が増えていくのではないか」ということが指摘されています。注3)

中央部(central division)
— 対象特許が付与された言語(英独仏のいずれか)。
ちなみに、前出「第7回UPC管理委員会ミーティング」報告(2023.6.26開催)によれば、中央部のひとつであったロンドンの後継が正式にミラノに決まりました。この決定は1年後の2024年6月に発効します。
担当する技術分野は、ロンドンの予定だった分野がそのまま引き継がれることはなく、一部がパリ、ミュンヘンに分けられたということです(下記)。

ミラノ – IPC section(A) 生活必需品。SPCなし
パリ – 同(B)処理操作、運輸 (D)繊維、紙 (E)固定構造物 (G)物理学、(H) 電気。 SPC
ミュンヘン – 同(C) 化学、冶金 SPCなし。(F)機械工学, 照明, 加熱, 武器, 爆破

注:
1)”Communication on the 7th UPC Administrative Committee meeting on 26 June 2023”
https://www.unified-patent-court.org/en/news/communication-7th-upc-administrative-committee-meeting-26-june-2023
2)”Case search” https://www.unified-patent-court.org/en/registry/cases
3)”Language of Proceedings”
https://www.unified-patent-court.org/en/court/language-proceedings
”Languages At The Unified Patent Court – Patent – European Union” Matthew Howell (HLK) 11 July 2023 mondaq.com

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