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2023.09.05

営業推進部 飯野

【Cases & Trends】米商標法(ラナム法)の域外適用に関する連邦最高裁判決 – 域外適用否定の推定に対する二段階分析

今回は米連邦商標法(「ラナム法」あるいは「ランハム法」と呼ばれている)が米国外の行為に及ぶか否か、及ぶ場合はいかなる場合かが争点となり、非常に注目された米国最高裁の判決を紹介します(Abitron Austria GmbH v. Hetronic Int’l, Inc. 6/29/2023)。結果は、域外適用に厳しい判断となりましたが、判断方法については5対4という割れた判決になり、今後の下級審での扱いが注目されています。(*本稿は筆者が日本ライセンス協会米国問題WG研究会(2023.8.29)で発表した内容に修正を加えたものです)

[事案の概要]
原告Hetronicは、米企業。建設機械用リモートコントロールのメーカー。被告Abitronは欧州企業(各国法人計6社)。元々AbitronはHetronicの正規ディストリビューターだったが、後にHetronicの知的財産の多く(本件対象商標を含む)について権利を保有すると結論するに至る。Hetronic製品のリバー スエンジニアリングを行い、第三者に作らせた部品を組み込んだ製品をHetronic製品の商標とトレードドレスを使って販売した。販売の多く(97%)は欧州であり、一部は直接米国で販売された。
2014年、HetronicはAbitronによる商標・トレードドレス侵害(15 U.S.C. §1114(1)(a) および §1125(a)(1))を主張して、オクラホマ西部地区連邦地裁に提訴。Abitronによる世界中の商標権侵害行為に対する損害賠償および永久差し止め命令を請求した。

[手続き経緯]
Abitronは手続きの早い段階から、「被告の行為は米国外で発生しており、ラナム法が域外適用されるのは被告の行為が米国取引に実質的影響をもたらす場合のみ。米国外の販売に基づく損害賠償は却下されるべき」と申し立てたが、地裁に退けられた。
その後陪審は、Abitronによる商標侵害(故意)認定し、米国を含む世界中の侵害販売に対し、9600万ドルの損害賠償を認めた。さらに地裁は、Hetronicの請求に基づき、世界中の侵害販売に対する差し止め命令を認めた。
これを不服とするAbitronの控訴に対し、連邦第10巡回区控訴裁は、海外での販売による米国取引への実質的影響を認め、差止め命令の範囲を少し狭くした(Hetronicが実際に販売した国に限定)以外は地裁命令を支持した。Abitronは最高裁へ上告請求し、受理された。

最高裁 – 控訴裁判決を破棄・差し戻し

[判決要旨]
多数意見執筆 Alito判事(Thomas, Gorsuch, Kavanauth, Jackson判事参加)
Jackson判事・補足意見提出、 Sotomayor判事・補足意見提出(Roberts C.J., Kagan, Barrett参加)  *下記ステップ1については全判事一致。ステップ2について5対4で割れた。

域外適用否定の推定(presumption against extraterritoriality)について
議会が制定する法律は、これに反する意思が明示されていない限り、米国領域内に限定して適用される」ということは長年にわたる米国法の原則である。Morrison v. National Australia Bank Ltd., 561 U.S 247, 255(2010) 域外適用否定の推定は、外国で発生した行為に米国法が適用された場合に生ずるであろう国際摩擦の回避に資するものであり、「議会は通常、国内問題を念頭において立法するという常識」を反映するものである。RJR Nabisco, Inc. v. Eurpean Community, 579 U.S. 325, 335-336(2016)

このような原則の下、いかなる場合に米国外の行為に当該法規定が適用されるのかが、以下のステップを経て判断されることになる。

二段階分析(two-step framework)
・ステップ1. 当該法は域外適用されることを定めているか。当該法が外国における行為に適用されることを議会が積極的かつ明確に指示(instruct)しているか。これに対する回答が「No.」 の場合、当該法は域外適用されるものでない(not extraterritorial)。分析はステップ2へ進む。

・ステップ2. 当該事件は「当該法の国内適用(domestic application)」に関するものか。
これを判断するためには当該法の「焦点(focus)」を決定する必要あり。そのうえで、当該法の焦点に関連する行為が米国内で発生した場合は、他の行為が米国外で発生したとしても、当該事件は「許容されるべき国内適用(permissible domestic application)に関する」ものと判断される。一方、当該法の焦点に関連する行為が米国外で発生した場合、当該事件は、米国内で発生した他のいかなる行為に関わりなく、「許容されない外国適用(impermissible foreign application)」に関するものと判断される。

ステップ1について、§1114(1)(a), §1125(a)(1)いずれの条項も、域外適用についての明示的文言はなく、それでもなお域外適用されるとするような議会の明らかな指示もない。いずれも、議会が定めた特定の条件において、保護された商標の「取引上の」使用を、それが誤認混同を招く場合に、禁止しているのみである。

ステップ2について、当該事件は「当該法の国内適用(domestic application)」に関するものかを判断するためには、当該法の焦点について判断する必要がある。すなわち当該法の焦点に関する行為が米国内で発生した場合は、他の行為が米国外で発生したとしても、当該事件は許容されるべき国内適用になる。

§1114(1)(a), §1125(a)(1)の焦点について、両当事者と合衆国政府(意見書提出)は以下のように主張した。Abitron:商標を侵害する使用を阻止すること。Hetronic:当該商標保有者のグッドウィルを保護し、消費者の誤認混同を回避すること。政府:消費者の誤認混同の可能性。
… 結局、両当事者が§1114(1)(a), §1125(a)(1)の焦点について抽象的に議論しても、必要な問いを尽くしたことにはならない。「許容される国内適用」を判断するための究極の問いは、「当該法の焦点に関連する行為の場所」である。両当事者が主張した焦点のいずれにも関連する行為とは、「侵害となる取引上の使用(infringing use in commerce)」であり、この結論は§1114(1)(a), §1125(a)(1)の文言と文脈から導かれる。… 要するに、「取引上の使用」こそが、 §1114(1)(a), §1125(a)(1) の焦点に関連する行為であり、域外適用に関するステップ2分析においては、「取引上の使用」が、本件ラナム法条項の国内適用か外国適用かを判断する境界線を提供するものとなる。

以上に鑑み、§1114(1)(a), §1125(a)(1)はいずれも域外適用について規定していない。また、商標を侵害する「取引上の使用」が、これら条項の外国適用か国内適用かを判断する境界線を提供すると結論する。控訴裁での手続きは、域外適用に関するこの理解に沿っていないため、控訴裁判決を破棄し、本意見に沿った手続きをとるよう事件を差し戻す。

[判決文(多数意見)に書かれたAlito判事によるソトメイヤー判事への反論]
ソトメイヤー判事は(後出、補足意見において)、ステップ2分析は、法の焦点の対象が「米国内に見出せるか、発生したか」にのみ向けるべき、と主張する。
この「焦点のみ基準(focus-only standard)」を使うと、米国における消費者の誤認混同可能性に関するいかなる請求もラナム法の「国内」適用に該当する、という結末をもたらす。このアプローチは誤りであり、我が国の域外適用の枠組みを毀損するような広範な適用をラナム法に認めることになる。… 特定の効果が米国内で発生する可能性さえあれば「国内適用」に該当するというのであれば、(域外適用否定の推定を見守る)番犬が、口輪をされたチワワだった(the watchdog is nothing more than a muzzled Chihuahua)ということになりかねない。この基準はまた、国際摩擦の懸念も生じさせる。

[ソトメイヤー判事の補足意見]
多数意見は本件法令の焦点について明確にせず、最高裁が確立してきた域外適用分析の枠組みを、近視眼的な「行為のみテスト(conduct-only-test)」に変えてしまった。(Alito判事による 「焦点のみ基準(focus-only standard)」批判に真っ向対立)
当該法の焦点を確定し、その焦点が国内に見いだせるかを検討するのではなく、「焦点に関連する行為」が国内で発生したかという第3ステップを新たに要求している — 当該法の焦点が行為に向けられている場合以外においてもだ。 この新たに作り出された第3ステップの下では、議会が守ろうとする国内の利益に対し、外国における行為が影響を及ぼす場合でも、当該行為に対し米国法を及ぼすことが不可能になる。

[Jackson判事の補足意見] (*中道的な提案型補足意見)
§1114(1)(a), §1125(a)(1)はいずれも域外適用について規定していない、という結論に賛成する。また、「取引上の使用」がこれら条項の外国適用か国内適用かを判断する境界線を提供するという点についても同意する。ただ、「(商標の)取引上の使用」が何を意味するか、その意味するところをいかに特定の事件における「許容される国内適用」判断につなげるかが、今後問われてくる。
商標の商標たる所以は、出所表示機能にある。議会も「商標使用」(出所表示目的)と「非商標使用」(非出所表示目的)を区別している。… これを前提にすると、商標の「取引上の使用」は、商標を最初に付けた場所や商標を付けた商品が最初に販売された場所で終わることはない。商標が出所表示機能を発揮している限り、いつでも、どこでも「取引上の使用」は生ずる。(この後Jackson判事は、ドイツへ旅行で行き、米国商標と類似する商標のついたバッグを購入し、米国帰国後も自分用に使用した場合(ケース 1)、学生が帰国後に飽きてバッグを再販し、米国内で出所の誤認混同が生じた場合(ケース 2)を示し、米国商標権者が(1)においてドイツ鞄メーカーをラナム法違反で提訴した場合は「許容されざる外国適用」になり、(2)においてドイツメーカーを提訴した場合は、「許容される国内適用」になるとしている)

最高裁判決原文はこちらから
https://www.supremecourt.gov/opinions/22pdf/21-1043_7648.pdf

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