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2024.08.30

特許部 木下 遼祐

【特許・意匠ニュース】 欧州、クレーム解釈に関する質問が拡大審判部に付託(G1/24)

2024年6月24日の審決T439/22に伴い、クレーム解釈に関する以下3点の質問が拡大審判部に付託されました。本付託は異議申立手続きに関するものですが、審査段階にも影響を及ぼし得ます。

1. EPC第69条(1)第2文およびEPC第69条を解釈するための議定書の第1条は、EPC第52条から57条までの発明の特許性を評価する際に、クレーム解釈に適用されるべきか?

2. 特許性を評価するためにクレームを解釈する際に、明細書と図面を参照してもよいか? もしそうであれば、これは一般的に行うことができるのか、それとも当業者がクレームを単独で読んだ際、不明確または曖昧であると判断された場合にのみ行うことができるのか?

3. 明細書で明示的に付与されたクレームで使用されている用語の定義または類似の情報を、特許性を評価するためにクレームを解釈する際に無視してもよいのか? もしそうであれば、それはどのような条件下で可能か?

欧州特許庁長官は、法的確実性の必要性、庁機能の確保、そしてすべての利害関係者の利益を考慮に入れて、付託が係属中である間も審査、及び異議申立手続を続けることを決定しました。

拡大審判部は、欧州特許条約の均一な適用を確保する任務を有しています。欧州特許庁は拡大審判部の決定があり次第、当該決定が審査部と異議部の実務に直ちに反映されます。

今後、拡大審判部の決定次第では、クレーム解釈に関する実務が現状から変更される可能性があると思われます。本件に関して、弊社では、引き続き情報収集および調査を進めて参ります。

(関連法規)
EPC 52条 特許を受けることができる発明
EPC 53条 特許性の例外
EPC 54条 新規性
EPC 55条 新規性に影響を与えない開示
EPC 56条 進歩性

EPC69条(1)(日本国特許庁の和訳文)
(1) 欧州特許又は欧州特許出願により与えられる保護の範囲は,クレームによって決定され る。ただし,明細書及び図面は,クレームを解釈するために用いられる。 (2) 欧州特許の付与までの期間においては,欧州特許出願により与えられる保護の範囲は, 公開時の欧州特許出願に含まれるクレームによって決定される。ただし,付与されたとき又 は異議申立,限定,取消手続において補正されたときの欧州特許は,それによって当該保護 が拡張されない限り欧州特許出願により与えられる保護を遡及的に決定する。

EPC第69条を解釈するための議定書の第1条
Article 69 should not be interpreted as meaning that the extent of the protection conferred by a European patent is to be understood as that defined by the strict, literal meaning of the wording used in the claims, the description and drawings being employed only for the purpose of resolving an ambiguity found in the claims. Nor should it be taken to mean that the claims serve only as a guideline and that the actual protection conferred may extend to what, from a consideration of the description and drawings by a person skilled in the art, the patent proprietor has contemplated. On the contrary, it is to be interpreted as defining a position between these extremes which combines a fair protection for the patent proprietor with a reasonable degree of legal certainty for third parties.

(参考)
・欧州特許庁の発表(2024年7月2日付)
https://www.epo.org/en/news-events/news/referral-claim-interpretation-g124?mtm_content=general&mtm_keyword=epo-newsletter&mtm_medium=newsletter-14
・審決T439/22
https://www.epo.org/en/boards-of-appeal/decisions/t220439eu1

木下 遼祐
大学院博士前期課程修了の後、日本技術貿易(現NGB)株式会社に入社。修士(薬科学)。入社以来、化学・製薬・食品分野を中心とした外国特許出願をサポート。外国特許について権利化から他社特許対応まで幅広く対応。各国実務に関する情報収集・発信で顧客の知財活動支援も行う。

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